伝えたい想いは歌声と共に

大沢さんの話すユウくん

 場所は変わって、軽音部室。
 職員室で入部届けを書いた後、私たちはそろってここにやってきた。
「それでは改めまして、軽音部卒業生の大沢泉よ。ドラムをやっていたわ」
 改めて見ると、大沢さんって本当に美人。そういえば、昔文化祭のステージで見た時も、綺麗な人だなって思った気がする。
「今もドラムはやってるんですか?」 
「ええ。高校でも音楽は続けてるからね。けど、ここの軽音部が廃部になるかもって聞いて、なんとかできないかと思ってやってきたのよ。あなた達がいれば、その心配もないけど」
 大沢さんの言う通り、この学校では部員が一人でもいれば部活はできるから、廃部になることはない。
 だけど、部員が私たちだけってのは、やっぱり不安もある。
「部員って言っても、俺たちまだ音楽を初めて半年くらいの初心者ですけど」
 三島も、同じような不安を抱えていたみたい。
 すると、大沢さんはそれを聞いてニコリと笑った。
「だったら、私が時々来て色々教えようか? やってる楽器は違うけど練習メニューの管理とか、打ち込み作業とか、できることはあると思うわ」
「本当ですか?」
「ええ。先輩として、後輩の面倒は見たいからね」
「ありがとうございます!」
 私も三島も全然初心者で、何をやるにしてもほとんど手探り。
 そんな私たちにとって、それはとてもありがたいことだった。
 こうして、大沢さん挨拶は一段落ついたけど、私にはまだまだ聞きたいことが残っていた。
 もちろん、ユウくんについてだ。
「あの、大沢さんがまだここの生徒だった頃、ユウくん……有馬優斗くんもいたんですよね」
 実はと言うと、さっきから聞きたくて仕方なかった。
「そうよ。驚いたわ。まさか、こんな形で有馬君の知り合いに会えるなんて」
 まさかと言うなら、そのユウくんが今幽霊になっているなんて、夢にも思ってないよね。
 実はユウくんは、さっきからずっと私たちのそばにいて、今までの話を全部聞いていた。
「まさか、大沢とこんな形で会えるなんて、驚いたな」
 懐かしそうに、そんなことを言う。
 その大沢さんはというと、私を見て嬉しそうな顔をする。
「藍ちゃん。あなたのこと、有馬くんからよく聞いてたの。近所に妹みたいな子がいるって、何度も何度も話していたわ」
「何度もってそんなにですか?」
「そうよ。もう何年も前のことなのに、すぐに思い出すくらいにね」
 ユウくん、いったいどれだけ私のこと話してたの?
 知らない所でそんなに話題に上がっていたんだって思うと、何だか恥ずかしい。
「俺、そんなにたくさん藍のこと話してたかな?」
 ユウくんを見ると、自覚がないのか首を傾げている。
 けど大沢さんの言う通り、本当に何度も私の話してたんだろうなって気がするよ。
「そうそう、こんな事もあったわね。文化祭の前に、有馬くん、私にこんなことを言ってきたのよ──」
 大沢さんも楽しくなってきたのか、さらに昔の話をしようとする。私も、もっと聞きたくて、ワクワクしながら耳を傾ける。
 けどその時だった。それまで黙って聞いていたユウくんが、急に三島に向かって言う。
「三島。何でもいいから、話題を変えてくれ」
「えっ?」
 驚く三島。
 いきなりそんなこと言われて、どうすればいいかわからないのかも。
 だけど、ユウくんは急かす。
「早く!」
「わ、わかったよ」
 ユウくん、いったいどうしたの?
 三島はますます戸惑うけど、それでも、言われた通り何かしなきゃって思ったみたい。
 そうして、咄嗟に言ったのがこれだった。
「あのっ。もしかして、二人って付き合ってたりしてたんですか?」
 その瞬間、大沢さんは喋るのを忘れてポカンとする。
 いきなりこんなこと聞かれたんじゃ、無理ないよね。
 おかげで、なんだか変な空気になっちゃった。
「そりゃ、何でもいいとは言ったけどさ……」
 そう言ったユウくんを、三島は睨むように見る。
 三島も、自分の言ったことを後悔してるのかも。
 だけど、だけどね。
 そんな中私だけが、大沢さんがなんて答えるか、すごく気になってた。
(どうなんだろう? ユウくん、彼女がいるなんて言ったこと無かったよね。でも同じ軽音部だし、仲が良かったのは間違いなさそう。それに、大沢さん美人だし、モテそう)
 もしも、本当に付き合ってたらどうしよう。ハラハラして、心臓がギュッと引き締まる。
 だけど、大沢さんは笑いながら首を横にふった。
「ないない。私と有馬君、仲は良かったと思うけど、あくまで友達としてよ」
 よ、よかった……
 心の底からホッとした。
 付き合ってたなんて言われたら、すごくショックだったかも。
 けどそれから、大沢さんはさらに言う。
「そもそも有馬君、誰かと付き合う気は無かったみたい。女の子から告白されたことは何度かあったけど、どれも断ってたわ」
 …………えっ?
 い、今なんて? こ、こ、告白された!?
「ゆ、ユウくん、告白された事あるんですか! 断ったって、どうして⁉」
 大人しくなりかけた心臓が、またうるさくなる。
 何度か告白されてたって、一人くらい付き合おうって思える人はいなかったのかな?
 だけど、話を聞けたのはそこまでだった。
「ごめんなさい。理由までは知らないの」
「そ、そうですか……」
 知らないのなら、どうしようもない。
 それによく考えたら、こんなの根掘り葉掘り聞くような話じゃないよね。
 今さらそれに気づいて、恥ずかしくなる。
(ごめん、ユウくん。こんなこと聞こうとして、嫌じゃなかった?)
 そう思ってチラリとユウくんを見るけど、ユウくんは何も言わずに、微妙な表情を浮かべるだけだった。
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