あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと
 菜月がフロアをぬけ、エレベーターホールの前まで来ると、後ろから「お疲れ」という声が聞こえてくる。

 背の高い凌平が菜月の隣に並び、二人はそのまま到着したエレベーターに乗り込んだ。


 帰宅ラッシュのエレベーター内は、多くの人で混み合っている。

 ぎゅうぎゅうに押されながら菜月がふと隣を見上げると、凌平は優しい目つきで菜月を見つめていた。

 菜月は照れたように頬をほんのり赤く染めると、そっと凌平の肩に身体を寄せる。

 近づいた凌平の胸元からは、ほんのりとムスクの香りが漂ってきた。

 鼻先をかすめる心地よい香りに、鼓動はどんどんと速さを増していく。


(凌平にもっと近づきたい……)

 菜月は自分の体温が、徐々に上昇するのを感じながら、上目遣いで凌平を見上げた。

 高校生の時には知らなかった、身体の芯が疼くこの感じ。


「凌平、好き……」

 ふいに菜月の唇から言葉が漏れる。

 凌平は驚いたように目を丸くした後、そっと自分の指先を、菜月の指に絡ませた。

「俺も好きだよ、菜月」

 そうささやきながら覗き込ませる凌平の顔は、さっきまでフロアで見せていたリーダーの顔つきではない。

 菜月だけが知っている、愛しい凌平の顔だ。


(あぁこれが、大人になって恋愛するっていうこと……)

 菜月はピンクに染まった顔を上げると、笑顔をほころばせながら大きくうなずく。

 そして愛しい凌平と共に、胸を弾ませながら足を踏み出すのだった。

【完】
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