―待ち合わせは、                   名前を忘れた恋の先で―

第14章|まだ思い出せないままでも

それから数日後。
紬のスマホに、ふと届いた一通のメッセージ。

> 「もし、また少しだけでも話せる時間があったら、会ってもいいかな?」



──大翔くん。

前に本屋さんで再会したとき、
彼の方から「よかったら」と言って連絡先を交換した。

そのときは、深く考える余裕もなくて。
ただ、なんとなく……その空気に流されるように、スマホを差し出した。

だけど、今になって思う。

あの日、自分は“誰かと繋がること”を
少しだけ望んでいたのかもしれない、と。

> 「うん、少しだけなら」



短くそう返して、スマホの画面を伏せる。

──記憶は、まだ戻らない。

でも、彼と話すたびに
ほんの少しだけ、自分の中の何かが溶けていく気がする。

言葉にならない感情が、
ゆっくりと、心に灯りはじめていた。

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