御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
「安心して。今日は俺の奢りだから。」

にっこりと笑うその顔が、昔の記憶を掘り起こす。

10年間、何度もこうやって向き合って、笑い合ったこと。

その一つ一つが、胸をくすぐるように蘇ってくる。

でも、私はもう、別の人と未来を歩いている。

そう、律さんと。

なのに――心のどこかで、ざわめきが止まらない。

一杯だけのつもりだったのに、気づけばグラスは何度か空になっていた。

「そろそろ帰らないと。」

お酒のせいか、それとも懐かしさのせいか。時が経つのが早すぎた。

律さんが、家で夕食を作って待っているかもしれない。

そう思って立ち上がろうとした、その時。

「待って、千尋。」

不意に腕を掴まれた。

さっきまで大学の思い出や友人の近況に笑っていた彼が、急に真剣な顔になる。

「今から話すこと、真面目に聞いてほしい。」

私は少し戸惑いながら、ゆっくりとうなずいた。
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