八咫烏ファイル
第九章:狼煙(のろし)
第九章:狼煙(のろし)
【高速道路 ― 横浜方面】
滝沢が運転するスーパーカーのエンジン音だけが
静かな夜の高速道路に響き渡る
助手席で夜は目を閉じ
何かの気配を探っているようだった
「で、作戦は?」
夜が目を開けないまま尋ねた
「行ってみなきゃ分からんだろ」
滝沢は前を見据えたまま答える
「出たとこ勝負ね」
「何が出てきても俺が全員殺してやるよ」
その声には絶対的な自信が満ちていた
「じゃあ私は観戦しとくわ」
夜はそう言うと滝沢に向かってひらひらと手を振った
「ケッ!」
滝沢は忌々しげに舌打ちをした
やがて遠くに横浜の港の光と
一際高くそびえ立つ黒いビルが見えてきた
金虎開発ビル
そのビルが見えた瞬間だった
夜が鋭く叫んだ
「止めて!」
キーッ!
タイヤがアスファルトを削る甲高い音を立てて車が急停車する
「なんだ?」
「……霊圧を感じる」
夜の表情が険しくなっている
「とてつもなく強い澱んだ気配だ」
「どこからだ?」
「目的地からよ」
夜は金虎開発ビルを真っ直ぐに指差した
【同時刻 ― 警視庁前】
一台の黒いセダンが音もなく警視庁の正面ゲート前の闇に停車した
中から二人の男が降りてくる
そして後部座席からぐったりとした瀕死の男を引きずり出し運転席に座らせた
先日CTに拉致された浜崎組の組員だった
男の一人が車の先端部分に小型のしかし強力なC4爆弾を設置する
もう一人がアクセルが全開になる位置で金属の棒を固定した
準備は整った
男はギアをニュートラルからドライブに入れる
その次の瞬間
車は激しいホイールスピンをさせながら猛然と警視庁の正面ゲートに向かって走り出した
車がゲートに激突したその瞬間
少し離れた場所で見ていた男がリモコンのスイッチを押した
ドゴォォォォォォンッ!
凄まじい轟音と閃光
日本の警察組織の中枢警視庁がオレンジ色の炎に包まれた
男の一人が電話をかける
「―――作戦決行だ」
【同時刻 ― 関東誠勇会本部近く】
数台の黒いバン
その先頭車両に王 霸の腹心趙 剛(ちょう こう)が乗っていた
彼のスマートフォンの画面が光る
電話に出ると向こうから短い報告が聞こえた
「作戦決行だ」
趙は静かに通話を切る
そして運転席に座る部下に短く命じた
「行くぞ!」
関東誠勇会本部の前に数台の車が急停車する
中から武装したCTの構成員たちが次々と降り立った
入り口にいた二人の見張りの組員がそれに気づく
「て敵襲だぁっ!」
二人は叫びながら銃を構え応戦しようとする
だが多勢に無勢
乾いた銃声が数発響き二人の体はアスファルトの上に崩れ落ちた
趙 剛はその光景に一瞥もくれることなくただ前を見据える
そして右手を高く上げた
「―――攻め落とせ」
その号令と共に多数のCT構成員が
一斉に関東誠勇会本部ビルへと突撃していった