八咫烏ファイル
第十三章:落着(らくちゃく)

第十三章:落着(らくちゃく)



【金虎開発ビル・1Fエントランス】
青い炎を纏った白虎が咆哮する
その口から青白い熱波が日(あきら)に向かって放たれた
日は巨大な鎌を振るう
熱波は空間ごと切り裂かれ無に帰す
白虎は立て続けに攻撃を仕掛ける
熱波 竜巻 鋭いカマイタチ
風の刃が嵐となってエントランスホールを蹂躙した
ドゴォォン!
凄まじい衝撃
ビルの外壁を覆っていた黒いガラスが全て木っ端微塵に吹き飛んだ
夜の闇と街の光がホールの中になだれ込む
外から全てが丸見えの状態になった
飛燕は顔の前で腕を組み爆風を遮る
夜の長い黒髪が激しくも美しく乱れた
その風の中を夜が駆ける
飛燕に向かって一直線にパンチを繰り出す
飛燕はそれを紙一重で避ける
だが夜の拳に宿る漆黒の炎
その霊力の奔流が持つとてつもない威力を肌で感じ取り冷や汗を流した
夜は避けた飛燕の方を見る
飛燕は壁に‪✕‬の字に飾られていた二本の中国刀を手に取った
そして中国武術の流麗な二刀流の構えを取る
飛燕が夜に襲いかかる
二本の刀が変幻自在な軌道で夜を切り刻もうとする
夜は足に宿した黒い炎を爆発させ高速移動でそれをかわす
だが飛燕は執拗に斬りかかる
息をもつかせぬ嵐のような連続攻撃
夜はふと立ち止まった
そして迫りくる二本の刃
その切っ先と切っ先が交差する一点に
炎を纏った拳を叩きつけた
パリンッ!
呆気なく飛燕の刀は粉々に砕け散った
飛燕は驚愕し後ろに大きく飛び距離を取る
だが遅い
縮地
先程よりも遥かに多い霊力を解放した神速の移動術
後ろに飛んだはずの飛燕
その目の前に夜はぴったりと密着していた
そして飛燕のみぞおちにそっと手のひらを当てる
無寸勁(むすんけい)
ゼロ距離から放たれる浸透勁
「ごふっ…!」
血を吐き糸が切れたように倒れる飛燕
夜はそれを見下ろし仁王立ちしていた
「クズだけど命までは取らない…」
その時だった
日と戦っていた白虎が急に振り返る
そして突然夜の方へと凄まじい速さで襲いかかった
『夜!?』
日の叫びが脳内に響く
夜が振り返るより速く白虎は迫る
だがその牙は夜を捉えなかった
次の瞬間
白虎は倒れている飛燕の体をその巨大な顎でくわえ持ち上げた
白虎の口の中に飛燕の上半身がほとんど収まっている
ゴリゴリゴリッ!
聞くに堪えないおぞましい音
飛燕の全身の骨が砕ける音と共に白虎の口から大量の血がボトボトと滴り落ちる
やがて白虎は口から飛燕のぐちゃぐちゃになった死体を吐き出した
そして大量の血を付けたその口から言葉を発した
その声は古く神々しい響きを持っていた
「勇気ある兄妹よ…」
「助かった…」
夜は白虎をじっと見つめる
日はいつもの定位置夜の背後にすっと戻っていた
「不覚を取った。忌々しいこの男の術に魂を縛られ言いなりにされていた」
「我は西を守る神獣。こやつのせいで西側は今大変なことになっておる…」
「……ウイグルのことか」
夜が静かに言った
「そうだ…。感謝する」
白虎は日に向かっても言った
「強き兄よ。君にも感謝する」
白虎はゆっくりと踵を返す
「人の子が神を縛る愚かな時代よ。だがお前たちのような魂もまた生まれるか。西の歪みは我らが正そう。達者でな」
そう言うと白虎は空間の歪みの中へとその姿を消した
ガラスが全て無くなり外が丸見えになったエントランス
夜は静かに外を見た
数台の黒いセダンが猛スピードでビルに近づいてくる
キーッと音を立てて車が停まり中から武装したCTのメンバーが降りてきた
その先頭に立つのは孫 鋒だった
夜は呆れたように呟いた
「……次から次へと」
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