『先輩、あの日の約束、                         覚えてますか?』

第1話「火曜日は、ちょっと憂うつ」

 火曜日が、いちばん嫌いだ。

 理由はひとつ。
 図書委員の仕事で、あの人とペアになるからだ。

 「……また間違ってる。貸出カード、日付の欄。来週じゃなくて“今週”ね。日付感覚、ポンコツ?」

 今日も来た。先輩の口撃(こうげき)

 「わかってますよ。書き間違えただけです」
 「ふーん、“わかってる”人がするミスとは思えないけど」

 私が静かに反論すれば、向こうはそれを上回る皮肉で返してくる。
 これが“火曜日の定番”。というか、呪い。

 「……ほんっとに苦手」
 私は小声でつぶやいて、貸出カードを机の上にぴしゃりと置いた。

 けれどその手元に、ふと目についたのは──

 ページの端がめくれた、くたびれたノート。
 何気なくそこに書かれていた、丁寧な文字。

 “風が吹いた午後、少年は傘を置いて、彼女に会いにいった。”

 ──え? これ、まさか。

 私は、心臓がひとつ跳ねる音を聞いた。

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