悲劇のセイレーンにささやかな愛を
クスクス、と笑ってる。
『しすいって呼んでもいい?』
「ん、もちろん」
そう答えるとパァッと顔を綻ばせた。
……分かりやすいな。
「あ、もうこんな時間か」
ふと腕時計を見ると、6時を回っていた。
夕日が水平線に沈もうとしている。
「澪、家はどこ?送ってくよ」
何気なく聞くと、澪は突然顔を伏せた。
『家、なくなった』
今までとは違い、乱雑に書かれたその文字を理解するのに、30秒はかかった。
「……は?なくなったって、え?」
『親がいなくなったから』
「……」