悲劇のセイレーンにささやかな愛を





『しすい、教科書見せてほしい』

「え、いいけど……また?」

『うん。いつもごめんね』


「……なんかあったら言えよ?」

『大丈夫!最近バカなだけだから』

「いつもだろ」

『しすい?』

「……はい」



俺は澪と机をくっつけながら数学の教科書を差し出した。

もうこれで教科書を貸すのも5、6回目だ。

しかも3日連続。


そういえば、澪の上履きもまだ見つかってないらしい。

さすがにおかしいのではないかと思っても、澪の自称バカ発言に違和感も吹っ飛んでいく。



「澪、ここ。間違ってる」

『本当だ!しすい、すごいね。今だって授業聞いてなかったでしょ』

「ん、澪のこと見てたから」

『今授業中!そういうこと言わない!』

「はーい」



クスクスと笑いながら机の上の腕に頭を乗せ、彼女の横顔を見つめる。

窓から差す光で照らされ、髪が風に揺れている姿は一見映画か何かのワンシーンのようだ。


そんな中で一生懸命に黒板を書き写し、問題を解く澪の横顔。

机をくっつけることによりさらに近くで見ることができるのだから、澪の失くし物に少し感謝してしまった。



『髪クルクルしないで!』

「え、ダメなの?」

「〜〜〜っ」




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