愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
海沿いの道の裏通りに、白い木枠窓が印象的なレストランカフェがある。
ウッドデッキのテラス席には、丸いテーブルとパラソルがふたつ並んでいる。
【C-garden(シーガーデン)】という店名が彫られた木製の看板は、店の歴史を表すように色褪せていた。
「陽花ちゃん、潮騒プレートは五番テーブルね。運び終えたら、マルゲリータを二番テーブルにお願い」
「わかりました。重光さん、新規オーダー入ります」
「はい、どうぞ」
「六番テーブル、ペスカトーレとボロネーゼ。八番テーブルにはメロンクリームソーダを三つお願いします」
静かに流れる心地よいジャズとは裏腹に、ランチタイムの店内は賑わっていた。
扉が開くたびに優しいベルの音が鳴り、潮の香りと光の揺らめきを運んでくれる。
ここ、シーガーデンは地元の人たちに古くから愛される名店だ。
この夏も観光客が多く来店し、休日になると店外に列ができることもあった。
九月に入ってからは少し落ち着いてきたけれど、地元の常連客は季節を問わず足を運んでくれるので、それなりに忙しい。
さらに、近くには海上自衛隊の基地がある関係で、自衛官や関係者たちが訪れることも珍しくなかった。
「うん、やっと一段落だな」
今日も十四時を回ったあたりで、オーナー兼シェフの庭野重光さんがつぶやいた。
重光さんは一週間後に還暦を迎える、この店の顔だ。年齢を感じさせないほどパワフルで見た目も若々しく、いわゆるイケオジを体現しているような人だった。
早起きしてサーフィンをしに海へ行くのが、若さと健康の秘訣らしい。
何よりも愛妻家というところが、重光さんの最大の魅力だ。
奥さんの祥子さんもとてもいい人で、私が入るまでは重光さんとふたりでお店を切り盛りしていた。