愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「もうあとは常連がひと組残ってるだけだし、陽花ちゃんは休憩入りな。賄いは何がいい? 久々に、陽花ちゃんが好きなオムライスでもするか?」
そんな重光さんは、今は亡き私の母の従兄に当たる。
三年前、母が亡くなって家主を失った母の実家に私が移り住んでからというもの、何かと気にかけてくれるようになった。
当時の私は、短大を卒業してから約四年勤めた都内の不動産関連会社を、引っ越しを理由に退職したばかりだった。
だから、『うちで働かない?』と声をかけてもらえて、すごくありがたかったんだ。
今も出勤日は必ず賄いを出してくれるし、両親が離婚している私にとっては、〝こんな人が本当のお父さんだったらよかったのに〟と思わずにいられない、第二の父のような存在でもある。
「重光さんのオムライス、嬉しい。あ……このあとなんですけど、ディナータイムが始まるまでの時間、いつもどおりここで漫画のことをしててもいいですか?」
シーガーデンの営業は昼と夜の二部制だ。昼は十時から十五時まで、夜は十七時から二十二時までと決まっている。
じつは一カ月前にホールとキッチンを兼任している祥子さんが腰を痛めてしまい、祥子さんが休みの間は私がランチとディナー、続けて入るようにしていた。
そしてほぼ毎回、カウンター席の片隅で漫画関連の仕事をしながら、昼営業と夜営業の間の空き時間を有効活用させてもらうのだ。
二時間の空き時間のために、家まで二十分かけて歩いて帰るのも面倒で……。
作画用のタブレットとペンも、そのつもりでいつも鞄に入れて持ってきていた。
「もちろん! 俺は陽花ちゃんが漫画家として活躍するのを、応援してるからね〜」
すでにディナータイムの仕込みに取りかかり始めた重光さんが、声を弾ませながらほほ笑んだ。
「……ありがとうございます」
重光さんは、私が漫画家として商業デビューを目指していることを知っている。
出版社の担当編集さんから連絡がきた際に、第三者の意見を聞きたくて、思いきって趣味で漫画を描いていることを打ち明けたのだ。
以来、重光さんと祥子さんは、私の漫画が出版されるのを心待ちにしてくれているのだけど……。