愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「わ……航、さん?」
さすがに重光さんのように呼び捨てることはできなかった。
それでも勇気を振り絞って名前を呼ぶと、彼は嬉しそうにほほ笑んだ。
「うん。その代わり、俺も君のことを、陽花って呼んでもいいかな?」
「は、はいっ。もちろんです!」
「ありがとう。プレゼント選びは、後日に詳細を詰めるってことで」
彼がそう言ってスマホを取り出したから、私もあわてて手に取った。
近づいた航さんからは私が好きな海の香りがして、胸の鼓動が速くなる。
私たちは、メッセージアプリを開いて、お互いのアカウントを登録した。
航さんのアイコンは海上自衛官らしく海の画像で、自然と顔がほころんだ。
「アジサイ?」
そのとき、航さんがスマホを見ながら小首をかしげた。
「あ……それは、紫陽花と書いて〝ゆかりはるか〟と読みます。私の本名です」
我に返ってあわてて説明すると、彼は興味深そうに、「へぇ」と短いを打った。
「すごく綺麗な名前だな。陽花に、よく似合ってると思う」
何げなく告げられたそのひと言は、私の心に花を咲かせる。
綺麗な名前だなんて、初めて言われた。珍しいねとは、よく言われるけれど……。
「航さん、ありがとうございます」
嬉しくて笑みをこぼすと、航さんも、ふっと優しく目を細めた。
「それじゃあ、また連絡するから」
そのタイミングで、オムライスを持った重光さんが、キッチンから戻ってきた。