愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「息抜きも大事だよ。たまには自分を、甘やかしてやるべきだと思う」
水瀬さんの優しい言葉が心に刺さる。
自然と凝り固まっていた気持ちが解放され、肩の力が抜けていた。
自分を甘やかすって、そんなこと、考えたこともなかった。
せっかくチャンスをもらったのだから、必死にやって当たり前だと思っていたんだ。
誰にでも巡ってくるものじゃないんだからって、私は気を張りすぎていた。
「あの、私……先ほどのお誘い、やっぱりお受けしてもいいですか?」
気がつくと自然とそう口にして、彼を真っすぐに見つめ返していた。
「水瀬さんと出かけたら、漫画に使えるアイデアが見つかるかもしれませんし……!」
つい前のめりになって声を張り上げた。
すると水瀬さんは一瞬目を丸くしたあと、たまりかねたように噴き出して破顔する。
「ふっ、はは」
少年のような笑顔だ。また胸が小さく音を立てて、頬が勝手に熱くなった。
「結局、どうしても漫画のことを考えずにはいられないんだな」
「あっ! す、すみませんっ」
「謝らなくていいよ。考えてみたら、俺も君と同じだし」
そう言うと彼は、私を見ながら眩しそうに目を細めた。
一瞬、呆れられるかと身構えたけど、まさか自分と同じだと言ってもらえるとは思わず、胸の奥が熱くなる。
「幹部自衛官の水瀬さんと同じだなんて、さすがに厚かましい気がしますけど」
デビュー未満の漫画家と、エリート幹部自衛官では天と地ほどの差がある。
苦笑いをこぼすと、水瀬さんは「関係ないよ」と、首を横に振った。
「っていうか、その呼び方、なんだか堅苦しいな」
「水瀬さん?」
「そうそれ。そんなにかしこまらなくていいよ。俺のことは、航でいいから。重光さんも、そう呼んでるし」
冗談めかすでもなく、諭すような口調で言われて、つい口の中で言葉を転がした。