愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 



 八月下旬。夏の終わりを告げる潮風が、長い髪を優しく揺らす。
 眼前に広がる海は鏡のように空を映し、水面は陽光を反射して輝いていた。
 私は、この美しい景色が好きだ。
 いつか、ここを舞台にした物語を描きたいと思うほど。

「あ……」

 朝の光に包まれる海沿いの道を歩いていたら、鞄の中でスマホが震えた。
 自然と足を止めた私は、届いたメールに目を通す。
 画面には、心のどこかで薄々予想していた、それでも願いとは真逆の言葉が並んでいた。
【作画は期待できますが、両思いになった主人公たちのやり取りにリアリティがないのが残念です】

「はぁ、またボツかぁ……」

 文面を読み終えたらため息がこぼれ、思わずそばの欄干にもたれた。
 私──(ゆかり) 陽花(はるか)は、〝アジサイ〟というペンネームで漫画家をしている。
 といっても、まだ商業デビュー前の卵だから、今は知り合いが経営するレストランカフェで週六日以上働きながら生計を立てていた。

 漫画家を本気で目指すようになったのは、三年前につくったSNSの趣味アカウントがきっかけだ。
 子供の頃、漫画家になりたいという夢を抱いていた私は、仕事をする傍らに描いた趣味の漫画をSNSに投稿するようになった。
 最初は完全に自己満足だった。そのうちに投稿した漫画を読んでくれる人が増え、今ではありがたいことに数万人のフォロワーが見守ってくれている。
 さらに転機が訪れたのは、数カ月前。とある漫画の投稿が思いのほかバズって、それが運よく少女漫画誌の編集さんの目に留まった。
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