愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「陽花は今、少しだけって言ったけど。俺としては、たくさんつけてもらいたい」
航さんが冗談めかして言うから、私はつられて笑ってしまった。
「ありがとう、大切にします」
噛みしめるようにつぶやいたあと、彼がつけてくれたブレスレットを静かに眺めた。
すると、その手をふたたび航さんに掴まれる。
宝物に触れるような温もりを感じて、心臓がまたトクリと跳ねた。
「やっぱり、今日はもう帰ろうか。陽花もいろいろあって疲れただろ。カフェは次回のお楽しみってことにしよう」
気がつくと、時刻は十六時を回っていた。
まだ帰るにはだいぶ早い時間だけれど、彼の気遣いが心に染みる。
何より今は胸がいっぱいで、これ以上のことを詰め込む余裕が私にはなかった。
「はい……帰りましょう」
今が幸せで、今日はこの余韻に浸ったまま眠りにつきたい。
航さんも、同じ気持ちでいてくれたらいいな──と思いながら顔を上げたら、私を見つめる穏やかな瞳と目が合った。
「結局、雨は上がらなかったけど、楽しく過ごせるかどうかに、天気は関係ないな」
「時間が過ぎるのがあっという間だった」と続けた航さんは、少しだけ名残惜しそうに私の手を引き、駅に向かって歩きだした。
ふたつの足音が、喧騒の中に溶けていく。
勇気を出して大きな手を握り返すと、前を行く彼の耳がまた赤く色づいた。