愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 
「これを、どうしても買いたかったんだ」

 そう言うと航さんは、プレゼントが入っている紙袋とは別に下げていた紙袋の中から、小さな箱を取り出した。
 箱には【Luna(ルーナ)】という、人気のアクセサリーブランドの名前が刻印されている。
 わけがわからず戸惑う私の前に、航さんはそれをそっと差し出した。

「これ、は……?」
「プレゼントを選んでいたときに、陽花がかわいいって言いながら見てただろ。今日付き合ってくれたお礼に、もらってくれたら嬉しい」

 そっと開けられた箱の中には、細くて上品なシルバーブレスレットが入っていた。
 Lunaの特徴である花弁のチャームが繊細にあしらわれた素敵なデザインに、私は思わず目を引かれたのだ。
 だけど……。

「お、お礼なんて、もらえません!」

 あわてて首を横に振った。そもそも航さんはスマホの修理代も今日のお礼だと言って払ってくれたのだから、どう考えても割に合わない。

「もしかして、気に入って見てたのは他のものだった?」
「そうじゃなくて! 私がかわいいなと思って見てたのは、たしかにこのブレスレットですけど、でも……」

 どう説得すればいいのかわからずに狼狽(ろうばい)すると、航さんは困った様子でほほ笑んだ。

「こんなものを渡されるのは、迷惑だった?」
「迷惑なんて、まさか! 私はただ、航さんに申し訳なくて」
「申し訳ないなんて思わなくていいよ。さっきは渡す理由が見つからなくてお礼なんて言ったけど、俺はただ、陽花に似合いそうだなと思ったから買ったんだ。これを見てるときの陽花の横顔が……頭から離れなくて」

 航さんは、照れた様子で私から目をそらした。
 耳の先が赤くなっている。胸がきゅんと締めつけられて、私も航さんの顔を見られなくなってしまった。

「迷惑じゃないなら、もらってくれると嬉しい」

 そう言われると、いよいよ断る理由がなくなってしまう。

「それじゃあ……少しだけ、着けてみてもいいですか?」

 いまだに握りしめたままだったスマホを鞄にしまった私は、おそるおそる航さんの前に手を差し出した。
 航さんが、ふわりと笑った気配がする。箱からブレスレットを取り出した彼は、それを不器用な手つきで私の手首につけてくれた。

「やっぱり、よく似合ってる」

 手首に触れた航さんの指先が、優しくて、くすぐったい。
 花弁のチャームが淡い光を受けて、まるで私の胸の高鳴りを知っているかのように揺れていた。

 
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