愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 





 長い夏が、ようやく幕を下ろした九月の下旬。
 青い空に立つように、艦旗が音もなく揺れている。
 陽光を浴びた護衛艦は今日も鋼の船体を横たえながら、港の風景に溶け込んでいた。
 時折、艦のスピーカーから流れる伝令放送が風に乗って耳に届く。
 港内を歩く隊員たちの足取りには迷いがなく、その姿は日差しを受けるほど白く眩しく光って見えた。

「よう、航。お疲れさん」

 午前の仕事を終えて庁舎に向かう途中、同期かつ同じ一等海尉である、村井(むらい)一尉に声をかけられた。
 村井は、艦の動力や環境設備など、艦の機能を支える中枢を担う技術部門の機関科を預かっている。
 今日もオイルのにおいが残る作業着姿で、片手には缶コーヒーを二本抱えていた。

「お前、そのコーヒー好きだよな」

 軽く笑うと、村井も口元を緩めた。どうやら村井も、これから昼休憩に入るところらしい。
 差し出されたコーヒーを受け取ったあと、俺たちは自然と肩を並べて歩きだした。

「午前は、気象観測か?」
「ああ。気圧配置と潮流の確認をしてた。あとはデータ送って終了」
「相変わらず几帳面だな。ま、そっちが正確に見てくれるおかげで、こっちは安心してエンジンを回せるよ」

 気象海洋部門と機関科は、艦の運航における密接な連携が求められる。
 そういうわけで仕事の関係性上はもちろん、同じ防衛大出の同級生ということもあり、俺たちは気心が知れた間柄だった。

 
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