フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
ときどきズレたことを口走る楓をそのまま愛してくれる両親と、まったく違うタイプなのに理解してくれる妹。
 
早苗にはSNSのアカウントは伏せているけれど小説を書いていることはうちあけている。
 
そこで伊東にアカウントを特定されたことを思い出し、思わず弱音を吐いた。

「だけどそれもしばらくはお休みかも……」
 
アカウントを新しくしても、すぐに書けるようにはならなさそうだ。
 
妄想するのと小説を書く作業は似ているが微妙に違う。
 
妄想は絶えず浮かんでいるが、それを物語としてまとめるには、別のエネルギーが必要だからだ。

伊東からのダメージを受けた今、創作に向かう気持ちにはなれそうにない。
 
返す返すも伊東が憎い。

《どうしたの? 何かあった?》
 
無神経なことをズバズバ言うように思えて、優しい早苗が心配そうに問いかける。

《お姉ちゃんが小説書きたくないなんて珍しい。ご飯食べなくなるより心配だよ》
 
可愛い妹にじーんとしながら楓は伊東との間で起こった最低の出来事を話した。
 
伊東がどれだけひどいやつか。
 
自分がどれだけ打ちのめされているか。
 
どれだけ最悪な目に遭ったかを。
 
早苗にも自分と一緒に、あの悪魔を罵ってもらいたい。そしたら少しは気分が晴れるかも……と思ったのに、理解者のはずの妹は正反対の言葉を口にした。

《え、最高じゃん》

「最高……⁉︎ なんでよ、最悪でしょ!」

《えーだってその人イケメンなんでしょ? 会社で王子って呼ばれるくらい。イケメン王子が実はドSって少女漫画の王道じゃん!》

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