フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「うんまぁ……。でも早苗こっちで就職して大丈夫なの? 彼氏は地元の子でしょ? お父さんの仕事継ぐって言ってなかった?」
 
確か親が税理士事務所を経営していて 本人も資格を取っているはずだ。
 
早苗が上京したら遠距離になってしまう。

《ああ、あいつね》
 
早苗が興味なさげに声を落とした。

《別れた》

「え、また?」

《だって『卒業したらお嫁さんになって俺を支えてくれる?』とか言うんだよ? 誰かに支えられんと生きれん男には興味ない》

「な、なるほど……」
 
早苗は恋多き女で彼氏が途切れた ことはない。楓には異次元級の世界だが、きっとすぐにまた新しい彼氏を見つけるだろう。

《そういうお姉ちゃんはどうなのよ》

「え?」

《えじゃないよ、彼氏できた? せめて好きな人くらいできててほしいってお母さん毎日仏壇に向かってご先祖さまにお祈りしてるよ》

「いやーまぁ」
 
ご期待に添えなくて申し訳ない。
 
妄想世界の住民が、現実で恋愛などできるはずなく、まったくの未経験だ。

《はぁ……その様子だとまだなんだね。二十五にもなって初恋もまだなんて。そのうち国の天然記念物に指定されちゃうよ? 私が推薦しようか? 厳重に保護してくださーいって》

「……オオサンショウウオみたいに言わないで」

《オオサンショウウオならいいけど》
 
早苗がため息をついた。

《現実味がなさすぎて架空の生き物みたいだよ。まさか妖精にでもなろうとしてる?》

「は? 妖精?」

《ほら、三十まで経験がないとなれるんじゃなかったっけ?》

「……それ魔法使いだと思う。てかべつに目指してないし」

《そうだっけ? ……どうせ、小説ばっか書いてんでしょ》
 
呆れたように早苗は言うが、その口調は優しい。
 
現実世界と距離を置きつつ生きてきた楓が、現状を幸せだと思えるのは、家族の理解があったからだ。
 
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