フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
嫌がらせにもほどがある!

完璧人間、伊東倫

伊東倫の人生は、順風満帆そのものである。

1、男女問わず誰をも魅了する恵まれた容姿。

2、どの分野もそつなくこなせてしまう高い能力。
 
3、ゲスな本音をうまく隠し、相手が望む人柄を演じられる要領のよさ。
 
この三つが揃えば完璧な人間の出来上がりである。
 
いつも人の輪の中心にいる皆の憧れ、それでいて適度な親しみやすさもある友達のような存在。
 
それが幼い頃からの倫の指定席だ。
 
自分が自分としてこの世界に生まれたこと、そして自分以外の人間が外面に騙される無能だということに、倫はとても感謝している。

「伊東さん、お疲れさまです」
 
夕方。
 
出先から帰社しエントランスを通り過ぎて階段へ向かおうとしていた倫は、声をかけられ足を止めた。
 
女性社員数人が駆け寄ってくる。

「今日はずっと外に出られてたんですね、寒くなかったですか?」
 
お疲れさまと思うなら話しかけんなよ、と心の中でぼやきながら、にっこりと笑った。

「お疲れさまです。寒かったですよ。今日はコート着てきて正解でした」

「わ、伊東さんちょっと鼻が赤いですよ」

「本当ですか? ……恥ずかしいな」
 
だからなんだと思いながら"照れている"という表情を浮かべる。べつに恥ずかしくともなんともないが寒さで赤くなった肌のお陰でそれらしく見えるようで、女性たちはふふふと微笑み合った。

「あの……伊東さん」

「はい」

「私たち、今日、美味しいお鍋の店に行くんです。よかったら伊東さんもどうですか? 営業の吉川(さんも誘っています」

「あー……」
 
おいおいおい、仕事中にくだらない ことで呼び止めんな、と心の中で毒づきながら、脳が素早く計算する。
 
相手は総務課の女性社員……名前すらあやふやな相手と飲みに行くメリットは皆無……どころか、他部署の女性との過度は交流は、他の男性社員の反感を買う。
 
会社の中でうまく立ち回るためにも避けるべき案件だ。
 
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