フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
結論に達し次第、"困ったな"という笑みを浮かべる。

「残念だけど、今夜は予定があって」
 
曖昧に言葉を濁しつつ答えると、女性たちのテンションが一気に下がった。

「そうですよね、伊東さんお忙しいですもんね」

「すみません、残念です」

「いえ、急に誘っても無理だってわかっていましたから」
 
こんな時、営業成績ナンバーワンという公式プロフィールが役に立つ。
 
予定があるとひと言言えば、相手は勝手にやんごとなき事情だと推測してくれるからだ。本当は家でだらだらと酒を飲みながら映画を見るという予定だとしても。
 
メリットのない飲み会に行くような無駄な時間は自分にはないし、終業後までにこにこするのはごめんこうむる。

「すみません、機会があればまた」
 
にっこりと笑って再び倫は歩きだした。

「カッコいいね」

「断り方もスマート」

「じゃあさ、太田くんでも誘ってみる?」
 
囁く声を背中で聞きながら階段へ向かう。
 
くそ、一分も無駄にした。
 
階段を上りはじめた時、再び「伊東」と声をかけられる。
 
振り返ると、企画部の太田だった。

「お疲れさまです太田さん」

彼は一年だが先輩だ。"出来のいい後輩"の顔になり答えると、追いついてきた太田がニヤリと笑った。

「見たぞ見たぞ〜受付の子猫ちゃんたちに誘われてたの。なんで断っちゃったの? もったいない。もったいないオバケが出ちゃうよん」

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