フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
該当部分に目を通した安西が「ちょっ、お前」と声をあげた。

「なに勝手に名前出してくれちゃってんの? もー恥ずかしいなぁ」
 
文句を言っている体(てい)ではあるが、まんざらでもないとハッキリ顔に書いてある。

「すみません、こういう時でもないとなかなかお伝えできないので。本当のことですし」

 申し訳ないという表情を浮かべて謝る体(てい)でダメ押しすると、安西はあからさまに嬉しそうな表情になった。

「ま、まぁ、俺がお前の指導係だったのは事実だしな」
 
社長賞を獲った倫に"功労者"として名前を出してもらえて溜飲が下がったようだ。

「まぁ、頑張れよ」と言って戻っていった。
 
その場の空気がホッと緩んだ。
 
やれやれと思いながら倫はようやく自席に座った。
 
倫自身は嫌味を言われるくらいはなんともない。
 
実力では結果が出せずに承認欲求を満たせない可哀想なやつと哀れむだけだ。
 
でもその場の空気がピリピリするのはいただけない。自分から仕掛けてないとはいえ、原因はあいつだと反感をかうおそれがあるからだ。
 
プライドが高く嫌味な安西だが、太田と違い単純なので扱いやすい。ああやってガス抜きししておけば、しばらくはおとなしくなるだろう。
 
上司や先輩にはいつもありがとうございますという姿勢を示し、同僚たちにはライバルだけどあいつに負けるなら仕方がないかと思わせる。

後輩には優しくて優秀な憧れの先輩として接し、自分をそういう目で見てくる女性社員はにっこり笑ってうまくかわす。
 
中、高、大の学生時代、それぞれの場所でその時の正解を演じてきたが、ここではこれが伊東倫の正解だ 。

 
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