フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
飲み会にて。
はじめ楓は借りてきた猫のようにおとなしく、本当は来たくなかったのだという気持ちを隠そうともしておらず、恨むような目で倫を見ていた。
知ったことか、嫌だったなら断れよ 。
だいたい嫌だってなんだ。会社のエース、人気者の俺に誘われたんだぞ、誇りに思え。
優しく話しかけながら倫はそう思っていた。
ただ楓が来たおかげで、"事務方への感謝の気持ちを忘れない気配りもできる伊東さん"の称号が得られたのは事実だから、情けをかけて早めに帰れるようにしてやった。
してやったのに! ……その後がまったく意味不明だった。
外に出るなり、楓は突然ニヤニヤとしはじめ、今までの態度が嘘のようにペラペラと話し出したのだ。そして挙句の果てに……!
指を差された時の屈辱を思い出し、ドンッとカウンターを拳で叩く。
叔父が振り返った。
「ん? どうかした?」
「……いや、なんでもない」
ビールをグイッと飲み干して、いやあれでよかったのだ、と思い直した。
藤嶋楓は倫の本性を知っている。それを倫自身が知らないよりはずっといい。
知ったからこそ、効果的な口止めができたのだから。
アルコールに弱いくせに、酔っ払って暴露したのも許してやろう。一瞬動揺させられ、笑顔にヒビを入れられたのも水に流してやる。
——まぁ、あいつなら噂を流すほど相手もいなさそうだしな。
彼女個人に恨みはないが、口止めは容赦なくやった。
ゴミ袋の件ははずみだった、あれは本心ではないとごまかすこともできなくはなかった。だがすでに彼女の弱みを握っているのであれば、それを突く方が効果的だと判断したからだ。
その前に大袈裟なくらい本性をバラして脅かせば、逆らおうなんてことは思わないだろう。
メロンクリームソーダに隠れるようにして怯えている姿には少し罪悪感を抱いたが、とにかく外部に漏らさせないようにするのが優先だから仕方ない。
その時の苦々しい気持ちを思い出して倫は舌打ちをした。
「ん? ビールおかわりするか?」
「……いや、大丈夫」
てか、なんであの場面でメロンクリームソーダを頼むんだ?
おかしいだろ、季節外れだろ。
会社一のイケメンとふたりきりで喫茶店だぞ?
そこは恥じらいながら、ア・カップオブティープリーズだろうが!
……という気持ちはさておき、まぁあれだけ脅しておけば、口外しないだろう。
自分の中で納得し、ハヤシライスを食べ終えると、ポケットのスマホが震えた。
営業職に就く者の性として、倫は俊敏な動きで取り出した。画面を確認し、なんだよと呟いた。例のSNS、コトマドからの通知だったからだ。
フォロー中のユーザーが何かをアップしたという知らせは、倫には一ミリも必要ないお知らせだ。
コトマドは倫自身は利用しておらず楓をフォローしているのも念のため。
べつに彼女がUPするものに興味もないし、今後アカウントチェックするつもりはない……。
それでも倫が通知を無視できなかったのは、ある疑問が浮かんだからだ。
アカウントを特定してると告げた際、楓は、この世の終わりのような表情だった。だから倫は、口止めはうまくいったと思ったのだ。
あれからまだ三日しか経っていないのに、普通平気で新しい記事をUPするか?
アカウントを特定されたことに実はそれほどダメージを受けてないのか?
そんなことを考えながら、倫が画面をタップすると、すぐに立ち上がるカエデちゃんのページ。
新しい記事とは短編小説のようだった。
一読し倫は眉間にシワを寄せた。
その小説のタイトルは。
『リン王子の誤算』
はじめ楓は借りてきた猫のようにおとなしく、本当は来たくなかったのだという気持ちを隠そうともしておらず、恨むような目で倫を見ていた。
知ったことか、嫌だったなら断れよ 。
だいたい嫌だってなんだ。会社のエース、人気者の俺に誘われたんだぞ、誇りに思え。
優しく話しかけながら倫はそう思っていた。
ただ楓が来たおかげで、"事務方への感謝の気持ちを忘れない気配りもできる伊東さん"の称号が得られたのは事実だから、情けをかけて早めに帰れるようにしてやった。
してやったのに! ……その後がまったく意味不明だった。
外に出るなり、楓は突然ニヤニヤとしはじめ、今までの態度が嘘のようにペラペラと話し出したのだ。そして挙句の果てに……!
指を差された時の屈辱を思い出し、ドンッとカウンターを拳で叩く。
叔父が振り返った。
「ん? どうかした?」
「……いや、なんでもない」
ビールをグイッと飲み干して、いやあれでよかったのだ、と思い直した。
藤嶋楓は倫の本性を知っている。それを倫自身が知らないよりはずっといい。
知ったからこそ、効果的な口止めができたのだから。
アルコールに弱いくせに、酔っ払って暴露したのも許してやろう。一瞬動揺させられ、笑顔にヒビを入れられたのも水に流してやる。
——まぁ、あいつなら噂を流すほど相手もいなさそうだしな。
彼女個人に恨みはないが、口止めは容赦なくやった。
ゴミ袋の件ははずみだった、あれは本心ではないとごまかすこともできなくはなかった。だがすでに彼女の弱みを握っているのであれば、それを突く方が効果的だと判断したからだ。
その前に大袈裟なくらい本性をバラして脅かせば、逆らおうなんてことは思わないだろう。
メロンクリームソーダに隠れるようにして怯えている姿には少し罪悪感を抱いたが、とにかく外部に漏らさせないようにするのが優先だから仕方ない。
その時の苦々しい気持ちを思い出して倫は舌打ちをした。
「ん? ビールおかわりするか?」
「……いや、大丈夫」
てか、なんであの場面でメロンクリームソーダを頼むんだ?
おかしいだろ、季節外れだろ。
会社一のイケメンとふたりきりで喫茶店だぞ?
そこは恥じらいながら、ア・カップオブティープリーズだろうが!
……という気持ちはさておき、まぁあれだけ脅しておけば、口外しないだろう。
自分の中で納得し、ハヤシライスを食べ終えると、ポケットのスマホが震えた。
営業職に就く者の性として、倫は俊敏な動きで取り出した。画面を確認し、なんだよと呟いた。例のSNS、コトマドからの通知だったからだ。
フォロー中のユーザーが何かをアップしたという知らせは、倫には一ミリも必要ないお知らせだ。
コトマドは倫自身は利用しておらず楓をフォローしているのも念のため。
べつに彼女がUPするものに興味もないし、今後アカウントチェックするつもりはない……。
それでも倫が通知を無視できなかったのは、ある疑問が浮かんだからだ。
アカウントを特定してると告げた際、楓は、この世の終わりのような表情だった。だから倫は、口止めはうまくいったと思ったのだ。
あれからまだ三日しか経っていないのに、普通平気で新しい記事をUPするか?
アカウントを特定されたことに実はそれほどダメージを受けてないのか?
そんなことを考えながら、倫が画面をタップすると、すぐに立ち上がるカエデちゃんのページ。
新しい記事とは短編小説のようだった。
一読し倫は眉間にシワを寄せた。
その小説のタイトルは。
『リン王子の誤算』