フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
そもそも俺はひとりで完璧なのだから、他人の存在は必要ない。恋人うんぬんを言わせないくらい完璧であればそれでいい。
 
俺はこれまでも、これからも自分が思い描く通りの完璧な人生を歩むのだ。

——そのはずだったのだが……。
 
順調そのもののだった生活に、つい最近起こったちょっとした綻びを思い出しスプーンを持つ手を止める。
 
苦々しい気持ちになった。
 
いや綻びと言うほどのことではない。ホコリが肩に乗ったくらいの出来事だ。ささっと払ったから、まったく問題ない。
 
そう心の中で確認して、再びスプーンを動かすが、気分は晴れなかった。
 
問題ないのは間違いないが、それでも今まで完璧だった倫のはじめての失態だったことは事実だ。
 
例の女性社員には連絡先を受け取ってほしいとしつこくされていた。

ちょうど決算月の追い込みの時期で、疲れがピークに達していたということと、あの時間滅多に人が来ない場所だったということで、つい気が緩んでしまったのだ。
後にも先にも会社で本音を口にしたのはあの時だけだったのに。
 
すでに手を打ったとはいえ、この世界に意図せず自分の本性を知っている人物が存在するのが忌々しい。
 
知られた人物、藤嶋楓は、経理部の地味なメガネ。存在感は半透明。
 
ただ仕事は抜群にできる。
 
営業は営業の仕事をしていればいいというのは無能なやつの考えることで、クライアントを本当の意味で満足させ、取引を続けるには、相手から見える見えないに関わりなく、その仕事に関することはすべてにおいて気を配る必要がある。
 
当然事務方の力が大切で、倫は、社内のどの人間がどのくらいの仕事をするのかを、常に把握するようにしている。
 
その中で目をつけていたのが藤嶋楓だった。
 
経理関係はミスが許されない部分だ。
 
楓はミスがなく、それでいて仕事が早い。イレギュラーな事態にも柔軟に対応できる。
 
東京クラフトは、ここ半年倫が力を入れて新規開拓に挑んできた相手だ。万全の布陣で臨みたかった。
 
目論見通り彼女の仕事は完璧だった。仕事だから当たり前だが、一定の感謝はしているから取引成功の祝賀会に呼んでやったのだ。
 
普段は大々的に褒められることのない部署の人間が感謝を形にされるのは嬉しいだろう。
 
ただ目的はそれだけではなく、営業社員としての自分の評価を上げるためでもあった。めんどくさい仕事を事務方に押し付けて、成果はすべて自分のもののように振る舞う営業は、いくら成績がよくても嫌われる。
 
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