フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
だからあの日一日を倫が紳士な伊東さんモードで過ごせなかったことを考慮すると、書けなくても仕方がない思っていた。
けれど彼女は書いたのだ。
しかも、倫が演じる表面的な魅力ではなく、内面にこそ魅力があるのだという書き方で。
読みながら倫は、デートの際の楓との会話を思い出していた。
妄想癖を理由に孤独だった学生時代。
離れていく他人に対して、彼女は〝仕方がない〟と表現した。恨んでいないというのは本心のように思えた。
倫はそれに怒りを覚えた。
なぜそんな風に考える?
楓はなにも悪くない。
湧き上がる怒りは、彼女を特別に想っているからでもあり、同時に自分自身の過去に重ねてもいたのだろう。
倫は常に人に囲まれる人生を送ってきた。
彼女とは真逆のように思えるけれど、本質は同じだ。誰にも本当の自分を見せられず、常に孤独を抱えている。
素顔の自分を否定されるかもしれないという恐怖。
わかってもらえない、つらさ。
けれど、その状況に対する考え方が、彼女と自分では百八十度違っていた。
倫は、周囲をまるで敵のように考えて完璧な自分を演じていた。騙してやる、騙される彼らはバカなんだと見下し、そうすることで自尊心を保っている。
一方で楓は、周囲を恨むことはなく、遠くからでも他人のいいところを見ようとしている。
だからこそ周囲の人をモデルにした彼女が描く物語は、優しく楽しいハッピーエンドなのだ。
大きくて澄んだあの瞳は、相手のいいところを見ようとする稀有な力を持っている。あの目に自分が強く惹かれた理由がわかったような気がした。
ステータスなんてクソ食らえだ。人としての本質を比べたら、自分こそ、彼女には相応しくない。それを思い知られた。だからもう彼女には関わらないと決めたのに……。
自販機にスマートウォッチをかざして、ブラックコーヒーのボタンを押し、倫ははぁ、とため息をつく。
まさか関係を継続することになるとは……。
決めたことをその通りに遂行できない自分は最悪だが、どこかでこの展開を喜んでいる自分がいて、それがさらに最悪だ。
もう少しこの関係を続けたいと言う彼女の提案を、もちろんはじめに聞いた時は断ろうと思った。小説を書くために一生懸命な彼女に、協力したい気持ちはあるがこれ以上は危険すぎる。本気になって後戻りできなくなる。
彼女を手放せなくなった後の結末は、ジントニックを飲みながらゆらゆらのカウンターで号泣だ。
けれどあの目に見つめられて、倫の決意はぐらぐら揺れた。
けれど彼女は書いたのだ。
しかも、倫が演じる表面的な魅力ではなく、内面にこそ魅力があるのだという書き方で。
読みながら倫は、デートの際の楓との会話を思い出していた。
妄想癖を理由に孤独だった学生時代。
離れていく他人に対して、彼女は〝仕方がない〟と表現した。恨んでいないというのは本心のように思えた。
倫はそれに怒りを覚えた。
なぜそんな風に考える?
楓はなにも悪くない。
湧き上がる怒りは、彼女を特別に想っているからでもあり、同時に自分自身の過去に重ねてもいたのだろう。
倫は常に人に囲まれる人生を送ってきた。
彼女とは真逆のように思えるけれど、本質は同じだ。誰にも本当の自分を見せられず、常に孤独を抱えている。
素顔の自分を否定されるかもしれないという恐怖。
わかってもらえない、つらさ。
けれど、その状況に対する考え方が、彼女と自分では百八十度違っていた。
倫は、周囲をまるで敵のように考えて完璧な自分を演じていた。騙してやる、騙される彼らはバカなんだと見下し、そうすることで自尊心を保っている。
一方で楓は、周囲を恨むことはなく、遠くからでも他人のいいところを見ようとしている。
だからこそ周囲の人をモデルにした彼女が描く物語は、優しく楽しいハッピーエンドなのだ。
大きくて澄んだあの瞳は、相手のいいところを見ようとする稀有な力を持っている。あの目に自分が強く惹かれた理由がわかったような気がした。
ステータスなんてクソ食らえだ。人としての本質を比べたら、自分こそ、彼女には相応しくない。それを思い知られた。だからもう彼女には関わらないと決めたのに……。
自販機にスマートウォッチをかざして、ブラックコーヒーのボタンを押し、倫ははぁ、とため息をつく。
まさか関係を継続することになるとは……。
決めたことをその通りに遂行できない自分は最悪だが、どこかでこの展開を喜んでいる自分がいて、それがさらに最悪だ。
もう少しこの関係を続けたいと言う彼女の提案を、もちろんはじめに聞いた時は断ろうと思った。小説を書くために一生懸命な彼女に、協力したい気持ちはあるがこれ以上は危険すぎる。本気になって後戻りできなくなる。
彼女を手放せなくなった後の結末は、ジントニックを飲みながらゆらゆらのカウンターで号泣だ。
けれどあの目に見つめられて、倫の決意はぐらぐら揺れた。