フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
倫の困惑
昼休み終わり、営業部の自席に戻り、午後の打ち合わせの準備をしていると「伊東くん」と声をかけられる。
顔を上げると、太田だった。なにやらクリアファイルを手にしている。
「お疲れさまです」と答えると、おもむろにそれをこちらに差し出した。
「これ、子リスちゃんからのラブレター」
「は?」
思わず声をあげてしまい、周りの社員の注目を集める。
太田がぷっと噴き出した。
「冗談だよ。書類のお届け」
「……ああ、ありがとうございます」
にこやかモードに戻りクリアファイルを受け取った。
「伊東くんさ、やっぱり子リスちゃんの件になると、いつもとちょっと違うよね」
「まったく違うことを考えてたので驚いたんですよ」
苦笑しながら立ち上がる。
「ちょうどよかった。打ち合わせの時間ですよね。一緒に行きましょうか」
太田が余計なことを言わないうちに、会議室に連行することにした。
くそ、変な冗談言いやがって、と心の中で毒づいた。
不覚にも声をあげてしまった自分が情けない。不意打ちだとしても普段ならこんなことはないのに。
動揺してしまったのは、子リスちゃんというワードかラブレターか。いや両方だろうなと思いながら、廊下を進む。
太田が「俺、タブレット取ってくるわ、先に行っといて」と言ってどこかへ行った。
ちょうどいいから、打ち合わせの際のドリンクを調達しに、自販機コーナーへ向かう。そこで昼休みに起きた想定外の出来事を思い出した。
藤嶋楓と関わるようになってから、自分をうまくコントロールできないことが続いているが、さっき楓と交わした約束が、その最たるものだった。
もう彼女には、かかわらないと決め倫はこの一週間を過ごした。それなのに、次の約束をしてしまったのだから。
そもそも関わらないと決めたなら、彼女が小説をコトマドにアップした時に、メッセージを送るべきだったのだ。
〝あれでいい。もう納得したから、この話は終わりだ。アカウントの件は絶対にバラさないと約束する〟
そうすれば会うこともなく彼女との関係を終わりにできた。メッセージだけで終わらせるなど不誠実だ、と言えるような関係にはそもそもないし、その方が彼女にとってもいいはずだ。
……だができなかった。
彼女が書いたあの小説を、今日までの期間で倫は何度も何度も読み返した。
相変わらず倫には、物語の良し悪しはわからない。
それでもすごいと素直に思った。
前章ではクズとしか思えないように描かれていたリン王子。デート回では、彼が意外と優しいところ、人知れず努力していたことが判明し、カエデが心動かされる様子が生き生きと書かれていた。
あくまでもあの話はフィクションで、リン王子は実際の自分ではないし、カエデが王子に対して抱いた気持ちは、彼女自身の気持ちではないとわかっている。わかっていても、心が揺さぶられるのを止められなかった。
デートをしてやると言った時、倫は楓が恋愛小説を書くとしたら、スマートにエスコートされたことに対するドキドキを表現するのだろうと予測した。経験のない彼女なら、それで十分ドキドキする。
顔を上げると、太田だった。なにやらクリアファイルを手にしている。
「お疲れさまです」と答えると、おもむろにそれをこちらに差し出した。
「これ、子リスちゃんからのラブレター」
「は?」
思わず声をあげてしまい、周りの社員の注目を集める。
太田がぷっと噴き出した。
「冗談だよ。書類のお届け」
「……ああ、ありがとうございます」
にこやかモードに戻りクリアファイルを受け取った。
「伊東くんさ、やっぱり子リスちゃんの件になると、いつもとちょっと違うよね」
「まったく違うことを考えてたので驚いたんですよ」
苦笑しながら立ち上がる。
「ちょうどよかった。打ち合わせの時間ですよね。一緒に行きましょうか」
太田が余計なことを言わないうちに、会議室に連行することにした。
くそ、変な冗談言いやがって、と心の中で毒づいた。
不覚にも声をあげてしまった自分が情けない。不意打ちだとしても普段ならこんなことはないのに。
動揺してしまったのは、子リスちゃんというワードかラブレターか。いや両方だろうなと思いながら、廊下を進む。
太田が「俺、タブレット取ってくるわ、先に行っといて」と言ってどこかへ行った。
ちょうどいいから、打ち合わせの際のドリンクを調達しに、自販機コーナーへ向かう。そこで昼休みに起きた想定外の出来事を思い出した。
藤嶋楓と関わるようになってから、自分をうまくコントロールできないことが続いているが、さっき楓と交わした約束が、その最たるものだった。
もう彼女には、かかわらないと決め倫はこの一週間を過ごした。それなのに、次の約束をしてしまったのだから。
そもそも関わらないと決めたなら、彼女が小説をコトマドにアップした時に、メッセージを送るべきだったのだ。
〝あれでいい。もう納得したから、この話は終わりだ。アカウントの件は絶対にバラさないと約束する〟
そうすれば会うこともなく彼女との関係を終わりにできた。メッセージだけで終わらせるなど不誠実だ、と言えるような関係にはそもそもないし、その方が彼女にとってもいいはずだ。
……だができなかった。
彼女が書いたあの小説を、今日までの期間で倫は何度も何度も読み返した。
相変わらず倫には、物語の良し悪しはわからない。
それでもすごいと素直に思った。
前章ではクズとしか思えないように描かれていたリン王子。デート回では、彼が意外と優しいところ、人知れず努力していたことが判明し、カエデが心動かされる様子が生き生きと書かれていた。
あくまでもあの話はフィクションで、リン王子は実際の自分ではないし、カエデが王子に対して抱いた気持ちは、彼女自身の気持ちではないとわかっている。わかっていても、心が揺さぶられるのを止められなかった。
デートをしてやると言った時、倫は楓が恋愛小説を書くとしたら、スマートにエスコートされたことに対するドキドキを表現するのだろうと予測した。経験のない彼女なら、それで十分ドキドキする。