半妖の九尾の狐は神巫女を独占中
第2章

拐かす妖

玖夜様の神巫女になってからしばらく経った頃。



あの件以来、琥珀は私の前では女の子のフリをすることはなくなり、呼び方もちゃん付けを外してくれと言われて呼び方を改める。



玖夜様との約束で学校にいる時は私を悪意から守ってくれていた。



今日も琥珀と一緒に帰り、分かれ道に差しかかる。



この先からは玖夜様の感知の範囲内だから、そこまで護衛してくれていた。



琥珀と別れ、1人ですぐ近くの(やしろ)へと向かっている時、玖夜様の姿が見える。



「玖夜様、ただいま帰りました 」



「あぁ、待っていたぞ。俺の神巫女。そなた、俺について来るがいい」



玖夜様に声をかけると、いつもと違う口調で語り出す。



それにいつもの玖夜様の匂いも違うし、雰囲気も違うような気がする。



目の前にいる玖夜様に違和感を抱いていると、早く来い、と急かされてしまう。



だけど、この人は喋り方もまとっている雰囲気もいつもの玖夜様と違う。



・・・それに・・・。



「どうした、俺の神巫女。早く俺について来いと言っているんだ」



玖夜様は私を呼ぶ時は必ず“悠乃”と呼び、“神巫女”と呼ぶ事はほとんどない。



さっきから神巫女としか呼ばないのが不自然でならない。



「・・・あなた、本当に玖夜様ですか?」



「・・・何を言う。俺はそなたの主である玖夜だ。それ以外に誰だと言うんだ」



「では、私の名をお呼びください。玖夜様なら、私の名を覚えてくださっているはずです」



警戒しながら玖夜様の姿をした人を見る。



なんとなくだけど・・・この人、玖夜様じゃない気がする。



「何故俺がいち神巫女を名で呼ばなければならない」



「っ・・・!」



決定的な発言に、警戒心をむき出しにしてその人を見る。



玖夜様は私の事を名前で呼ぶ、なのにこの人は呼ばなかった。



玖夜様の姿をしているけど、玖夜様じゃないっ・・・!!



「・・・玖夜様は、いつも私の事を名前で呼びますっ・・・!あなた・・・誰ですかっ・・・!?」



「・・・・・・ハァ〜・・・たかが人間のくせに俺様の変化(へんげ)に気付くとは・・・。だが、一緒に来てもらうぞっ!!」



「っ・・・!? 」



玖夜様の姿をした誰かは頭をガシガシと掻き、玖夜様の姿から巨大な1つ目の妖の姿に変わっていった。



玖夜様や琥珀のように人型を保っている妖しか見た事のない私は、漠然とした恐怖が襲ってくる。



見た目が完全に常軌を逸していて、対面しているだけで足がすくんでしまう。



思わず玖夜様の名前を呼ぼうとしたけど、恐怖のあまり声が出ない。



バッグを抱き締めるように強く持ち、後ずさる。



だけど、小石が落ちていたのに気付かずにつまずいてしまい、尻もちをつく。



痛みを感じる余裕がないぐらい、私の体は恐怖心に支配されていた。



「神巫女と言っても所詮は人間の小娘。騒がしくないだけ良しとするか」



「っ・・・」




ジリジリと近寄ってくる1つ目の妖に、逃げるすべもないまま目の前まで迫られる。



顔に手が当てられたのと同時に、意識がぐらりと遠のいていく。



・・・玖夜様・・・。



助けを求めるように心の中で名を呼びながらも、薄れゆく意識に抗えずに私は暗闇に引きずり込まれた。


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