売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
──おかしい。
痛いだけのはずだった。

でも、いつの間にか、その痛みは引いていた。

そして、代わりに押し寄せてきたのは──熱。

奥の奥までを溶かしていくような、甘くくすぐったい感覚。

「クライブ……」

思わず、彼の名を呼んでいた。

私は──初めての男の頬にそっと手を添えた。

彼の汗が、静かに流れていた。

目を伏せたまま、それでも私を見失わないように動いてくれる、この人に。

「クラディアって……呼んで……」

声が震えた。
でも、どうしてもそれだけは欲しかった。

名も知られず、ただ“抱かれる”だけなんて。

それでは、自分が本当に何もかも失ってしまう気がして。

クライブはわずかに息を呑むと、低く囁いた。

「……クラディア……」

その瞬間、胸の奥がきゅうっと締めつけられた。

──せめてもの、救いだった。

そして──

「……うっ……クラディア……終わりだ……」

クライブの身体が強く震え、次の瞬間、彼の熱が私の中に溢れ出した。
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