蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜
ついに、戦場の中央、燃える木立の中でその姿をとらえた。
かつて忠義を誓い、父王を「真の王」と敬った男。
だが、今の彼は冷たい瞳で剣を構え、かつての主君の息子に刃を向けていた。
「アグレイス。やっと来たか」
「アルベルト。どうして……父を裏切った」
その問いに、アルベルトはわずかに目を細めた。
「私は裏切ったわけではない。“見切った”のだよ。あの王では、この国は変えられなかった」
「変えることと、壊すことは違う」
「いや、何かを変えるには、何かを捨てねばならぬ。たとえそれが……王家であってもな」
アグレイスはその言葉に、剣を強く握りしめた。
「ならば俺が、守ってみせる。壊すことなく、変える道を」
二人の剣が、雷鳴のように激しくぶつかり合った。
火花が散り、地が揺れる。
何十度も交わされる刃。一太刀一太刀が、過去の信頼と裏切りを断ち切るようだった。
互いに血を流し、倒れぬまま、立ち続ける――
だが、決着は突如として訪れた。
アグレイスの剣が、アルベルトの刃を押し返し、彼の胸元に突き立った。
「ぐ……!」
「これが……終わりだ」
アルベルトは崩れ落ちた。
その瞳には、悔しさとも哀しさともつかない色が宿っていた。
「ならば……その覚悟、見せてみろ……アグレイス……王としての……」
その言葉とともに、彼の命は尽きた。
アグレイスは剣を下ろし、そっと目を閉じた。
(終わった……)
いや、まだ「戦い」が終わっただけだ。
王としての責任は、これから始まる。