蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜
「月を見ているのか?」
その声に、驚いて振り返ると、アグレイスが静かに立っていた。
白銀の髪が月光に照らされて、まるで神話の獣のように美しかった。
「……眠れなくて」
「わたしもだ。そなたの顔が、ずっと浮かんで離れなかった」
その言葉に、セレナの胸がどくん、と跳ねた。
アグレイスはそっと彼女の隣に腰を下ろす。
ふたりの間にあるのは、夜風と星のきらめきだけ。
「セレナ。今日は、ありがとう。わたしは――少し怖かった。そなたが、もし……と考えてしまった」
珍しく弱さを見せるその声に、セレナはゆっくりと顔を向けた。
「私、何もできないと思っていました。ずっと……誰かの“代わり”で、“捨てられた”存在だって」
アグレイスの眉が、わずかに寄る。
「でも、今日……誰かの役に立てたのが、嬉しかった。守りたくて、そばにいたくて、それが“自分の意志”だったって……はじめて、そう思えたんです」
小さな声で、でも確かに告げられた言葉に、アグレイスは深く頷いた。