神様はもういない

あなたを追いかけて

 翌日、夜通しよく眠れないまま朝を迎え、雅也と営業部長と共に、昼イチに得意先の大手製菓会社へとやってきた。今日のこのコンペを勝ち取れば、売上は一千万円以上になる。最初にこの数字を聞いたときは驚いた。
たった一社との取引で一千万……?
売上の規模も、営業部からの期待もひとしおだ。ゆえに、雅也だけでなく営業部長も同行することになったのだ。
「山名さん。きみの腕は確かだと日比谷課長からも聞いている。今日は頼んだぞ」
「は、はい」
 営業部長はきりっとしたまなざしで、私を見つめながら言った。「期待」という二文字が重くのしかかる。
「あゆり、大丈夫? 緊張してない?」
 部長が聞いていないところで、雅也がこっそり耳元でささやく。
「緊張しまくり……昨日もよく眠れなくて……。でもこんなチャンス滅多にないし、みんなの期待に応えられるように頑張るわ」
 昨日眠れなかったのはコンペの件もあるけれど、それ以上に湊とすれ違ってしまったせいだった。今朝も、部屋の中に湊の姿はなかった。成仏したというわけではないことくらい分かっている。湊はあえて私の前から姿を消しているのだ。
「うん、あまりプレッシャーはかけたくないけど、とにかく最後まで一緒に頑張ろう」
 雅也の心強いひとことに、凝り固まっていた身体がちょっとだけほぐれた。
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