神様はもういない
「誰のせいで……」
「ん?」
「誰のせいでこうなったと思ってるの!」
 自分でもびっくりするぐらい鋭い声が喉からこぼれ出た。湊がぽかんと口を開き、呆気に取られた様子で私を見つめ返す
「あ、えっと」
 さすがに鈍感な湊でも私がいまどんな気持ちでいるか、分かったんだろう。先ほどまでうっすらと浮かんでいた笑みが、途端に消えた。
「……ごめん」
 降り始めた雨のようにぽつりと耳に落ちてきた声に、心臓が鷲掴みにされたような心地悪さを覚えた。
「ごめんな、あゆり」
 手のひらから、掬ったさらさらの砂がこぼれ落ちるみたいに、私の中からも、大事なものが滑り落ちる。
 湊がくるりと踵を返して、すっと消えてしまった。
「あ、待っ——」
 呼び止めたけれど、もう遅かった。
 湊がこんなふうに姿を消すことができるなんて知らなかった。彼も、今まで自分が幽霊だなんて知らなかったのだから、こういう力があることも、彼自身いま知ったのではないだろうか。
 捨て置かれた猫のように一人きりの部屋に残された私の中に、苦い気持ちが広がっていく。
 ああ、また。
 またひとりぼっちになっちゃったな……。
 原因をつくったのは私なのに、身も心も震えてしまって、恋人である雅也に連絡をしようという考えすら浮かばない。ひとりきりじゃないはずなのに。どうしてこんなにも、虚しくて寂しいんだろう。
 テーブルの上で開いたままのノートパソコンの画面をそっと閉じる。 
 その日はもうそれ以上何も考えられなくて、部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。

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