(マンガシナリオ) 白雪姫は喋らないー口下手な姫くんは怖そうだけど優しいですー
13話 口づけはお姫様から
「さっき、通り雨があったからいつもと違う風景が撮れて良いねー」
あのまま手を引かれたまま中庭まで来ると途端に姫くんは手を離して自身の首から下げていたカメラに手を置いた。
だから、話はまだしなくて写真を撮るのだろうかと私も被写体を探す。
通り雨で濡れて、太陽を反射してキラキラと光る花弁の一枚一枚がきれいで、きっと今なら良い写真が撮れそうだ。
「……りんごさん」
「どうしたの姫くん」
カメラを構えようとしたところでふと、名前を呼ばれて振り返る。
「改めて、昨日はごめん……オレのせいで、写真サークルの人達に、嫌われたらオレ、どうしたら……」
姫くんはおどおどしながらぽつりぽつりと言葉をこぼす。
そうか、姫くんは不安な時、カメラを触るんだ。
話の内容よりもまた一つ彼の知らないことを知れたことのほうが嬉しい。
「大丈夫だよ、姫くん、良二さんから聞いたけど先輩若いっていいなーって言ってたみたいだし、あの子は……元々ああいう感じだったし……」
そう、飲み会に誘った先輩からその日のことを探りついでにと良二さんが聞いてくれたらしいその情報では良い感じに酔っぱらってそんなことを言っていたらしいということだった。
そして件の女の子に関しては、いつもああいう感じの子だから、またすぐ別の相手に目を付けて姫くんのことも忘れてしまうだろうからきっとそこまで気にする必要もない。
前までの私だったらそれでも気にしてたと思うけど。
「オレは、りんごさんの写真……好きだよ」
「それは昨日もたくさん言ってくれたから分かってる、ありがとう」
お酒が抜けてもなお、こうして私の写真を褒めてくれる人が一人でもいる。
それだけで存外人というのは満足するものなのだと、私は初めて知った。
「それにしても、やっきになってた時は全然だったのに、こうして自然に友達が二人も作れて、どこかに縋る必要なんてなかったのかも」
私は自嘲気味にそう言って笑う。
あんなに友達作りにやっきになってた時は空回りばっかりだったのに、今では姫くんと良二さんという二人の友達が出来た。
物事やっぱり焦るのは良くないのだろう、何事も。
写真だってそうだった、待ってみれば意外とすぐにまた撮れる未来は待っていたわけだし。
だけど
「オ、レは……君と……りんごさんと、友達で終わるのは、嫌だ」
姫くんは決心したようにそう言うと、真剣に私の瞳を覗き込む。
「姫、くん……っ!」
どうしよう、そう、思ったとき、カシャっとシャッターの落ちる音がする。
「いい一枚が撮れたね」
姫くんは笑いながらそう言って手に持ったカメラを軽く振って見せるから
「っ、ずるいよ今のはー!」
私は抗議の声をあげる。
私が撮りたいと言った時は断ったのに、しかも一番撮られたくないところを撮られてしまったのだから怒りもする。
「……いいよ」
「え?」
だけど、姫くんの次の言葉は優しい声色で
「りんごさんになら、オレ写真撮られてもいい、かっこよく撮ってね」
そしてそのままカメラを持ったまま姫くんがゆったりと構える。
「姫くんも、そういうこと言うんだね、じゃあめちゃくちゃイケメンに撮ってあげる! こっち向いて!」
姫くんが撮って良いと言ってくれたことが嬉しくて、さっきまで少しだけ怒っていたことすらどうでもよくなってしまう。
私はカメラを構えると姫くんを急かす。
そして
「行くよー、はい、チーズ」
写真撮影の定番の掛け声と共にシャッターを下ろす。
「どうだろ、上手く撮れたかな……私人撮るの初めて――」
初めて撮った人の写真、それも姫くんの写真だ。
すぐにでも一緒に確認したくてカメラを弄りながら顔を上げればふと、触れるだけの優しいキスを今度は勘違いしようのない場所、唇に姫くんが落とした。
「……これも、初めてだったら、良いんだけど……」
唇はすぐに離れて、それから少しだけ照れたように姫くんはこちらを見やる。
190センチもあるはずなのに少しだけ幼く感じるのはその表情からだろうか。
「は、初めてだけど……」
恥ずかしさというのは伝搬するもので、こちらまで恥ずかしくなりながら口を押さえてそれだけ何とか返す。
「嫌……だった……?」
そして今度は少し不安そうにそう問いかけてくる。
これに関しては迷うまでもなく答えは既に決まっていて私はそれを姫くんに伝えるためにまた口を開いた。
「ううん、全然嫌じゃないっ!」
白雪姫は起こされる側、
キスされる側、だけど
白雪姫からキスをして、始まる物語だってきっと、あってもいいだろう
あのまま手を引かれたまま中庭まで来ると途端に姫くんは手を離して自身の首から下げていたカメラに手を置いた。
だから、話はまだしなくて写真を撮るのだろうかと私も被写体を探す。
通り雨で濡れて、太陽を反射してキラキラと光る花弁の一枚一枚がきれいで、きっと今なら良い写真が撮れそうだ。
「……りんごさん」
「どうしたの姫くん」
カメラを構えようとしたところでふと、名前を呼ばれて振り返る。
「改めて、昨日はごめん……オレのせいで、写真サークルの人達に、嫌われたらオレ、どうしたら……」
姫くんはおどおどしながらぽつりぽつりと言葉をこぼす。
そうか、姫くんは不安な時、カメラを触るんだ。
話の内容よりもまた一つ彼の知らないことを知れたことのほうが嬉しい。
「大丈夫だよ、姫くん、良二さんから聞いたけど先輩若いっていいなーって言ってたみたいだし、あの子は……元々ああいう感じだったし……」
そう、飲み会に誘った先輩からその日のことを探りついでにと良二さんが聞いてくれたらしいその情報では良い感じに酔っぱらってそんなことを言っていたらしいということだった。
そして件の女の子に関しては、いつもああいう感じの子だから、またすぐ別の相手に目を付けて姫くんのことも忘れてしまうだろうからきっとそこまで気にする必要もない。
前までの私だったらそれでも気にしてたと思うけど。
「オレは、りんごさんの写真……好きだよ」
「それは昨日もたくさん言ってくれたから分かってる、ありがとう」
お酒が抜けてもなお、こうして私の写真を褒めてくれる人が一人でもいる。
それだけで存外人というのは満足するものなのだと、私は初めて知った。
「それにしても、やっきになってた時は全然だったのに、こうして自然に友達が二人も作れて、どこかに縋る必要なんてなかったのかも」
私は自嘲気味にそう言って笑う。
あんなに友達作りにやっきになってた時は空回りばっかりだったのに、今では姫くんと良二さんという二人の友達が出来た。
物事やっぱり焦るのは良くないのだろう、何事も。
写真だってそうだった、待ってみれば意外とすぐにまた撮れる未来は待っていたわけだし。
だけど
「オ、レは……君と……りんごさんと、友達で終わるのは、嫌だ」
姫くんは決心したようにそう言うと、真剣に私の瞳を覗き込む。
「姫、くん……っ!」
どうしよう、そう、思ったとき、カシャっとシャッターの落ちる音がする。
「いい一枚が撮れたね」
姫くんは笑いながらそう言って手に持ったカメラを軽く振って見せるから
「っ、ずるいよ今のはー!」
私は抗議の声をあげる。
私が撮りたいと言った時は断ったのに、しかも一番撮られたくないところを撮られてしまったのだから怒りもする。
「……いいよ」
「え?」
だけど、姫くんの次の言葉は優しい声色で
「りんごさんになら、オレ写真撮られてもいい、かっこよく撮ってね」
そしてそのままカメラを持ったまま姫くんがゆったりと構える。
「姫くんも、そういうこと言うんだね、じゃあめちゃくちゃイケメンに撮ってあげる! こっち向いて!」
姫くんが撮って良いと言ってくれたことが嬉しくて、さっきまで少しだけ怒っていたことすらどうでもよくなってしまう。
私はカメラを構えると姫くんを急かす。
そして
「行くよー、はい、チーズ」
写真撮影の定番の掛け声と共にシャッターを下ろす。
「どうだろ、上手く撮れたかな……私人撮るの初めて――」
初めて撮った人の写真、それも姫くんの写真だ。
すぐにでも一緒に確認したくてカメラを弄りながら顔を上げればふと、触れるだけの優しいキスを今度は勘違いしようのない場所、唇に姫くんが落とした。
「……これも、初めてだったら、良いんだけど……」
唇はすぐに離れて、それから少しだけ照れたように姫くんはこちらを見やる。
190センチもあるはずなのに少しだけ幼く感じるのはその表情からだろうか。
「は、初めてだけど……」
恥ずかしさというのは伝搬するもので、こちらまで恥ずかしくなりながら口を押さえてそれだけ何とか返す。
「嫌……だった……?」
そして今度は少し不安そうにそう問いかけてくる。
これに関しては迷うまでもなく答えは既に決まっていて私はそれを姫くんに伝えるためにまた口を開いた。
「ううん、全然嫌じゃないっ!」
白雪姫は起こされる側、
キスされる側、だけど
白雪姫からキスをして、始まる物語だってきっと、あってもいいだろう
