(マンガシナリオ) 白雪姫は喋らないー口下手な姫くんは怖そうだけど優しいですー

3話 忘れられないお姫様

 その日、家に帰ると早々に次の日の授業の準備を始める。
 転勤族だった私は大学進学を境に一人暮らしを始めた。
 始める前はそれなりに不安もあったけど、今ではそれなりに快適だと感じているのが事実。
 何よりも、毎回目新しい者へ注がれるあの好奇の視線が無いことが一番良い。
 ひとつのことが解決すると次の問題が現れるというのが人間の性ではあるが。
「……明日のコマはー」
 私は早々に嫌なことを頭の隅に押しやってしまうとカバンから教材を取り出していく。
「あっ……」
 教材に紛れてコロンっとこぼれ落ちたフィルムケースに視線を向ける。
 結果何故か私はそのフィルムケースを写真屋に出すことはせずに持ち帰ってきてしまった。
 理由は、特にない、筈。
 そう、ただそういう気分だっただけ。
 そう思おうとするのに
「っ……」
 白雪くんのあの照れたような顔がどうしても頭のなかを過る。
「白雪、姫くん」
 私は確かめるようにその名前を口にしてみる。
 おとぎ話から飛び出てきたような彼の名前。
 自分と似たような名前だからだろうか初めて聞いたときから少しだけ親近感があった。
 白雪姫という名前なのに大柄で、だけど肌は雪のように透き通りそうな程白い。
 短めの黒髪だって白雪姫のそれと同じ。
 実際のところそこまで似合わない名前ではないとさえ思う。
 それに、頬を朱く染めたその姿はまさに……
「あー、やめよ」
 そこまで考えてからブンブンと頭を振る。
 たまたま、そう、たまたまあんな表情を見てしまったから少しだけ気になるだけ。
「……でも」
 あの瞬間を撮りたかったなんて思ってしまうのは、きっと最近写真を撮れていなかった、そのせいだろう。
 でも、人を被写体にしたいと思ったのは、これが初めてだったのは事実だ。
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