進路指導室で、愛を叫んで

死ぬまであなたを大事にするし、泣かせないし、嫌な思いもさせない

 二年後の冬の夕方。

 三年生になった俺、由紀、坂木、美園の四人で進路指導室に向かった。

 俺と由紀、それに美園は、それぞれ実家の造園屋や農家を継ぐ。

 でも坂木は進学を選んだ。

 坂木が先日センター試験を終えて、点数や志望校の相談をするって言うから、俺たちもついてきた。


「いや、ぞろぞろ着いてこられるの邪魔なんだけど」


 坂木が嫌そうな顔をしたから、笑って返した。


「いいじゃん、俺ら就職だし、それも実家だから、することなくてヒマなんだよ」

「じゃあ帰れよ……」

「終わったらゲーセン行こう」

「行かねえ……」


 騒ぎながら進路指導室の扉を開けると、私服姿の女性が背中を向けて椅子に座っていた。


「……藤宮先輩……?」


 女の人がぱっと振り向く。

 きれいだった髪はボサボサで、顔も涙で濡れていて、それでも世界で一番綺麗なその人は、間違いなく藤宮桐子だった。


「す、須藤くん……?」


 先輩の目から、またぽろぽろと涙が零れる。

 駆け寄ってポケットを探したけど、やっぱり入っていたのはぐしゃぐしゃのハンカチだけだった。

 迷った末に学ランを脱いで、シャツの袖で先輩の顔をそっと拭った。

 ……かえって赤くなってしまった気がする。



「先輩、どうしたんですか、こんなところで、こんなに泣いて……」

 いくら拭いても、先輩の涙は止まらなかった。

 顔を上げると、先輩の向かいに進路指導の先生と美園先生が並んで、渋い顔をしていた。


「……藤宮が実家の花屋を継ごうとしていたのは、知ってるな?」

「はい、先輩からもそう聞いています」


 美園先生の重い声に頷く。

 進路指導の先生は立ち上がり、坂木に声をかけていた。


「藤宮に妹がいるのは知ってるか?」

「えっと、はい。二つ下で、俺たちと同い年だって」

「妹さんが大学受験に失敗して、ご両親は彼女に花屋を継がせることにしたそうだ」

「……はあ?」


 思わず大声が出た。

 うつむいたままの先輩の肩が、小さく震えていた。


「……それで、藤宮は就職の相談をしに来てくれてた」
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