毒舌おにいさん、実はバーテンやってます
海の合宿 「友達がたくさんできる青空と夕焼け」
夏休みスペシャルのために、夏になる前に肌寒い季節に海で撮影することになった。
これが少し前にナルおにいさんが言っていた海の撮影かと憂鬱になる。
鳥肌必至の肌寒さ。
ロケバスで海に行き合宿撮影だ。ロケでは 水着での登場もあったが、露出が少な目の水着で参戦。
ナルおにいさんは腹筋が割れていて、体を鍛えていることが水着になるとよくわかる。
視聴者のお母さんたちは、羨望のまなざしであの腹筋を見るに違いないと思った。
子供のいない女性にもファンがついているらしいから、きっとこの腹筋は女性たちに共有される代物だろう。
春の寒空の海で、常夏気分で踊れ歌えの無茶ぶりだった。
最近感じることだが、うたのおねえさんの仕事を舐めていたかもしれない。
思ったより 体力的にきつい。
それを顔に出さずに、まるで真夏の空の下で歌うかのようなナルおにいさんはすごい。
声は、後に撮り直すみたいだがそのまま使っても問題ないクオリティーだ。
撮影の時はいつも肩と肩が密着する。
変にうたのおにいさんとおねえさんが離れているのは不自然なので、いつもくっついてくださいと言われる。
正直、心臓の音を聞かれてしまわないか――ドキドキしてさらに心拍数が上がる。
のどかの右には、いつもうたのおにいさんがいる。
撮影が終わると、瞬時に離れるのだが、なかなか肩と肩が密着するという行為に慣れずにいた。
夜は温泉につかり、久々に疲れが取れたような気がした。
少し遠い海だし、一日で撮影は終わらないため一泊二日となった。
久々に一人になり、思い出す。
これは少し前のバーのお客さんの話だ。
「友達がほしいんです。小学校に入る時に習う歌に友達100人できるかなっていう歌、あれ拷問ですよね。保険会社の営業の仕事をしているんですけれど、友達もいないし、このままじゃクビです」
マシンガントークをする男の様子を見て、のどかはこの男、友達ができないタイプだなと感じていた。
一方的に話をするけれど、相手に話をさせる間合いを作らない典型的な一方通行男という感じだった。
一言で言うとウザイタイプだ。
「はい、どうぞ」
注文を聞かずに神酒は美しいカクテルを差し出す。
「これ、なんというカクテルですか?」
はじめて、神酒に対して話す機会を与える男。
「青空と夕焼けのカクテルです。友達がたくさんできる効能がありますよ」
この手のタイプには一方的に話させて、その会話の内容でその人に合ったカクテルを作るというのも神酒らしい手法だった。
接客業は相手を見て柔軟に対応する。
マニュアルにとらわれてはいけない、人間対人間なのだからと神酒はどんな相手にも柔軟に神対応をする。
そのカクテルは二層になっており、上の部分が青空を表しているようで澄んだブルーだ。下の部分は夕焼けを表しているらしくレッドの色合いだ。
「一番下に沈んでいるのはなんですか? そして、グラスのふちには綿菓子ですかね?」
マシンガントーク男が珍しく質問をする。それくらい見た目も変わったカクテルだった。
「レッドの部分には夕焼けジャムを入れております。ブルーの上には綿菓子を雲に見立てて創作致しました。これを飲めば、みんな友達ですよ。嘘だと思って飲んでください。この店にいるお客様とまずはお友達になれると思いますよ」
「またまた、うそでしょ?」
男は冗談だと思い笑みを浮かべながらカクテルを飲む。美しいカクテルに魅せられた客の一人がさっそく男の隣の席にやってきて話しかける。
このカクテル何ですか? からはじまり、男はなんと保険の営業を取り付けたのだ。そして、その人の友人もちょうど保険を検討しているということで、この後、このバーに来ることになった。
「まさに絶好調ですね。友達ができるカクテルって営業マンには無敵カクテルじゃないですか?」
二葉が神酒に話しかける。
「友達って多ければ多いほどいいってもんでもないですけどね」
意外と冷めた目で神酒は話す。
「神酒さんって友達少なそうな気もしますよね」
二葉がにこやかに本心を言う。
神酒は少し睨みながらも、口元だけはスマイルを心掛けているようだった。
「本当の友達がひとりいるのと、本当じゃない友達が100人いるの、どちらが幸せなのかと思うけどな。友達という定義は実にあいまいだと思わないか。恋愛に発展する前の友達かもしれないし、クラスや部活や出身校が一緒だっただけでも友達なのかもしれない」
「その深い見解が友達を遠ざけてしまっているような気がしますけれどね」
的を得たのどかの言葉に、神酒は反論できなかった。
1カ月後に友達が100人できた様子の男がバーにやってきた。
「おかげさまで、友達がたくさんできました。でも、本当の友達ってなんでしょうね? 友達だから、お金を貸してくれとか、連帯保証人になってくれ、商品を買ってくれという人も結構いましてね。僕はずっと友達がいなかったから、全員と本当の友達でいたいのですよ」
「友達という定義は個人によって違いますからね。本当の友達を見分けるカクテルなんていかがですか?」
神酒さんは、きっと色々な人間を見てきているから友達を作りたいと思っていないのかもしれない。
わずらわしいことが嫌いなのかもしれない。
のどかはそんな気がした。