契約外の初夜で、女嫌い弁護士は独占愛を解き放つ～ママになっても愛し尽くされています～

　もう秋の日和でもおかしくないというのに、日中はまだ暑いことも多い。
　今日も夏の名残を感じさせる日で、薄手のカーディガンを羽織っていると汗ばみそうだった。
　歩きながら電車の時刻を調べ、改札口を抜ける。
　念のため、会社にも電話で説明しておいた。


　幸いにも、今日の私の予定はこれで終わり。
　本来ならこのまま会社に戻って事務作業をするはずだったけれど、さっちゃんから『直帰していいわよ』と言われた。
　お礼を言って通話を終え、ちょうどホームに停まっていた電車に乗り込む。


　すると、スマホが震えた。
　彼からの返信だと思った私は、表示されたバナーを見て反射的に固まってしまう。


【このまま無視するつもりなのか？】


　トークアプリの通知に表示されたのは、中郷課長の名前とその一文。
　いつものように相手のアカウントを非表示にしたけれど、背中に嫌な汗が流れていった。


　どうにか深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、櫻庭さんの勤務先を改めて検索する。
　彼の職場——『アーサー・椎名(しいな)法律事務所』が入っているビルは赤坂見附駅から二駅の虎ノ門駅にあり、駅からは徒歩五分もかからない。
　数分で着いた虎ノ門駅で降り、人の流れに沿うようにして改札を出て地図アプリを頼りに歩いていくと、『ロータンセビル』にたどりついた。