こちらヒロイン2人がラスボスの魔王と龍になります。
封印の森から
「依然として足取りは掴めないというわけか」
報告書を読み上げたシオンは溜息をついた。ジーナが逃げ出してから一週間、はじめのうちは集まっていた目撃情報も次第に少なくなり今ではどこにも目撃者はおらず、捜索するも成果無しの報告書しか届いてこない。
龍の儀式の最中に起こったこの事件は上層部で意見が割れた。
たかが一人の兵隊が逃げ出したくらいで神聖なる儀式を見合わせることなどできるか、神聖なる儀式であるからこそ慎重な姿勢で憂いを無くすべきだ、と。
議論は重ねられたが平行線が続き最終的に龍身が決定した。
「……完全に真ん中にするとは」
竹を割ったような単純さであったなとシオンは今も思う。
捜査と儀式を同時進行させる、それだけであるが双方の立場の僧たちが心配を訴えるも退ける。
「あれは捕まる。妾には自信がある。これ以上の議論と迷いは不要だ」
この一言だけであったが龍の光に当てられたのか僧たちは反論をせず頭を垂れるしかなかった。
シオンは龍身が焦っているようにも見えた。一刻も早く儀式を完了させ龍となりたい……これまでとは違う、そう以前の……ヘイム……とは違うその姿勢にシオンは瞼を閉じ頭を振る。
「それ以上考えるな」
口に出してそう言った。最近独り言が多くなったと思いつつもシオンはまた声をあげて否定する。
「もう疑うな」
ヘイムは龍身という龍となるものであり、これから龍となる……おかしなことを考えるなと、シオンは自分で自分に言いきかせた。
龍の儀式が終われば……こんな変なことを考える必要など、なくなるのだから。
儀式が始まったため龍の休息所には連日人の出入りが激しいものであったが、休憩時間はきっちりと設けられており完全にとられた。
「休憩もまた儀式の一部であるからな」
日に日に龍らしくなっているようにも見える龍身が軽口交じりでそういった。
事件後はすこぶる機嫌が良いのもシオンには不思議に思えた。楽しめることなどないというのに。
「身体の具合はもういいのか?」
龍身は隣に座らせているハイネに向かって尋ねた。
「お陰様でもう回復致しました。与えられた機会を生かせず、申し訳ありませんでした」
「謝罪はいらん。ハイネは龍の最側近に相応しい英雄的な務めを成し遂げ戦果をあげたのだ。おい、あれを出せ」
命ぜられた女官がジーナの剣と鞘を机の上に乗せると場から小さくも広がりのある歓声があがった。
「こうして剣を回収できたのは極めて大きい。良いかハイネよ。これまで幾百もの戦士やらがあれに戦いを挑んでいったが、誰一人として奴の獲物を取ったものはおらぬのだ」
そう言うや龍身は左手で鞘を掴み荒々しく剣を抜く。その年季の入った薄汚れた刀身に悲鳴が上がるが龍身は今は無き左眼付近に近づけ停止させると、いきなり机の上に叩きつけた。
凄まじい音を立てるも、だが剣は砕けも曲がりもせず強靭な意思を有するように形を変えることなく机の上で横に寝そべっているだけであった。
「こういうものだろうよ、不快なものだ。ハイネ、戦利品として受け取るがよい。厳重に保管して置け」
言葉と態度が荒ぶっているようであるも口調は軽快であり明らかに上機嫌であるため、一同の動揺はどこにも起こらなかった。
「はい、肌身離さずに帯刀いたします」
恭しくハイネが受け取ると両手で剣をしっかりと握りしめた。
「うむ。それが最も安全であるかもしれんな。お前が相手ならやつも取り戻すという気を起こさぬやもしれん。シオンよ。ハイネは復帰した直後だ。捜査の状況を説明してやってくれ」
分かりました、とシオンはハイネが気絶後のあらましを伝え始める。
気絶したハイネがジーナに抱きかかえられ兵舎の門番に預けられた後は市街地で以って僧兵による追跡が続けられた。
痺れがまだ残っているために足は遅くそのうちに追いつくだろうと思われたが、ここで第二隊通称ジーナ隊の隊員と偶然遭遇し、乱闘が始まった。
僧兵の報告ではこれにはジーナの指示はなかったとのことである。第二隊の隊員もあっちがぶつかってきたために殴ったと証言しており、奇妙なことに両者の言い分に疑いの余地はないのであった。
このせいで追跡が途絶え聞き込みに頼ることとなる。
本来なら目立つはずのない兵隊姿であるもジーナはある意味で目立つ存在であるために目撃談は容易に拾えたが、その行き先を追っていくと……
「封印の森に、ですか……」
聞いたハイネがそう呟くと場の静けさがさらに深まった。
封印の森、それは龍の休息所の裏に広がる森林地帯のことであり古よりずっと開拓はされてはいない。
それは龍の始祖がこの森林地帯にここ龍の休憩所を建造した際に、これより以後一切の手を入れることを禁じたからであった。
龍の許可がなければ誰も入ることは許されない封印された一帯である。
「地下迷宮の入り口を隠すためとは昔から言われておりますね」
ルーゲンがそう言うと場の緊張感が強まりそこにいる誰もが分かった。
思うことはみな同じであった、封印の森から地下迷宮に繋がっている可能性があると。
地下迷宮とは中央の城の真下にある古代の遺跡であり、これもまた龍の始祖が遥か彼方の時代に一部を除き立ち入り禁止としてしまい、どのような構造であり、どことどこが繋がっているということが全く不明となったままである。
「……禁止されたことを破るのが好きというかなんというか」
龍身が溜息を漏らすとルーゲンが含み笑いを浮かべたまま言った。
「最悪の事態を想定致しますと彼は封印の森に逃げ込み、どこかにあるかもしれない地下迷宮への入り口を発見しそこから通じてここに……」
ルーゲンが床に指を指すと一同がそれを見つめ息を呑む。
「どうだ導師? 可能か?」
龍身は尋ねた。
「できるかどうか、は彼の運と努力次第でありましょう。我々としましてはその最悪の事態を想定し、その可能性を一つずつ潰していく、それをやるほかにはありません。シオン嬢と僕の指揮のもと休息所周辺から徐々に波状的に捜索の輪を広げている最中であります」
満足そうに頷きながら龍身は手元の書類をめくる。
「塔の壁面に入口の類のものは無かったようだな。それに現在の捜査範囲内でも入り口らしきものはないと。これでもここへの入り口があるという可能性は捨てきれないというのか?」
「最後まで捨てることはしない方が良いと思われます。何故なら休息所は龍の為の施設でありそのため最高機密であるために、設計図はもとより無くそういった類のものが一切ございません。これは龍の始祖様のご命令でもありましたでしょう。そのために研究及び探索といったものが禁止されております。つまりこの内部には我々があずかり知らぬ秘密の何かが隠されている、と見た方が良いかと」
「だが妾の指示でこの施設の調査を指示しておるが、そのようなものは見つかってはおらぬとのことだ。いったいどこにあるのやら」
全ては師の妄想ではないかと場の空気が少しずつ変わり出しているなかでルーゲンは天に指差し言った。
「すると残るは龍の祭壇付近、となります。実はそこにあると想定したのがはじまりでした。そこにあるとしましたら全ての理由は説明ができます」
「つまり龍の為の脱出経路があるということか。龍の広場、あるいは祭壇になぁ……ふむ、あってもまぁおかしくはない。この建物の道は一本だけであるからな。上りも下りも同じ階段。もしも下から敵が攻めてきたとしたら妾は上に登っていくしかないが、青天井には階段はかかっておらず、さりとて妾とはいえ空は飛べぬからのぉ。龍の始祖が龍身専用の脱出路を設けても不思議ではなく、むしろ当然と言えような」
「逆に考えますとそれが侵入路ともなります」
ルーゲンの指摘にまた場の空気が凍るも龍身は笑いを堪えながら、小さく笑った。
「おお怖いな。しかし間抜けでもない限り一方通行になるような仕掛けにすると思うがのう。脱出路は出口でもあり入口でもあるとする導師の見立てによると、不敬ではあるが龍の始祖様はどこかおっちょこちょいであるようだな」
指摘に対しルーゲンは龍身と似た笑い方をしながら答えた。
「そうなさってはくれているでしょう、が分かりません。そもそものお話、僕の仮説は全てあるともないともいえない闇の中なのです。仮にあったとしましたら、長い年月を経てそれがどうなってしまい、どのような状態であるのかは全くの不明です。龍の始祖様が御造りであるのなら完全なままだ……と言い切れません。またそんなものは絶対にない、絶対にないからそのようなことは考えなくてもよい……と言える自信などはありません」
シオンが口を開いた。
「……ルーゲン師の考え方を真似るとジーナがその脱出路の知っている可能性を排除すべきではない、と言えますね」
報告書を読み上げたシオンは溜息をついた。ジーナが逃げ出してから一週間、はじめのうちは集まっていた目撃情報も次第に少なくなり今ではどこにも目撃者はおらず、捜索するも成果無しの報告書しか届いてこない。
龍の儀式の最中に起こったこの事件は上層部で意見が割れた。
たかが一人の兵隊が逃げ出したくらいで神聖なる儀式を見合わせることなどできるか、神聖なる儀式であるからこそ慎重な姿勢で憂いを無くすべきだ、と。
議論は重ねられたが平行線が続き最終的に龍身が決定した。
「……完全に真ん中にするとは」
竹を割ったような単純さであったなとシオンは今も思う。
捜査と儀式を同時進行させる、それだけであるが双方の立場の僧たちが心配を訴えるも退ける。
「あれは捕まる。妾には自信がある。これ以上の議論と迷いは不要だ」
この一言だけであったが龍の光に当てられたのか僧たちは反論をせず頭を垂れるしかなかった。
シオンは龍身が焦っているようにも見えた。一刻も早く儀式を完了させ龍となりたい……これまでとは違う、そう以前の……ヘイム……とは違うその姿勢にシオンは瞼を閉じ頭を振る。
「それ以上考えるな」
口に出してそう言った。最近独り言が多くなったと思いつつもシオンはまた声をあげて否定する。
「もう疑うな」
ヘイムは龍身という龍となるものであり、これから龍となる……おかしなことを考えるなと、シオンは自分で自分に言いきかせた。
龍の儀式が終われば……こんな変なことを考える必要など、なくなるのだから。
儀式が始まったため龍の休息所には連日人の出入りが激しいものであったが、休憩時間はきっちりと設けられており完全にとられた。
「休憩もまた儀式の一部であるからな」
日に日に龍らしくなっているようにも見える龍身が軽口交じりでそういった。
事件後はすこぶる機嫌が良いのもシオンには不思議に思えた。楽しめることなどないというのに。
「身体の具合はもういいのか?」
龍身は隣に座らせているハイネに向かって尋ねた。
「お陰様でもう回復致しました。与えられた機会を生かせず、申し訳ありませんでした」
「謝罪はいらん。ハイネは龍の最側近に相応しい英雄的な務めを成し遂げ戦果をあげたのだ。おい、あれを出せ」
命ぜられた女官がジーナの剣と鞘を机の上に乗せると場から小さくも広がりのある歓声があがった。
「こうして剣を回収できたのは極めて大きい。良いかハイネよ。これまで幾百もの戦士やらがあれに戦いを挑んでいったが、誰一人として奴の獲物を取ったものはおらぬのだ」
そう言うや龍身は左手で鞘を掴み荒々しく剣を抜く。その年季の入った薄汚れた刀身に悲鳴が上がるが龍身は今は無き左眼付近に近づけ停止させると、いきなり机の上に叩きつけた。
凄まじい音を立てるも、だが剣は砕けも曲がりもせず強靭な意思を有するように形を変えることなく机の上で横に寝そべっているだけであった。
「こういうものだろうよ、不快なものだ。ハイネ、戦利品として受け取るがよい。厳重に保管して置け」
言葉と態度が荒ぶっているようであるも口調は軽快であり明らかに上機嫌であるため、一同の動揺はどこにも起こらなかった。
「はい、肌身離さずに帯刀いたします」
恭しくハイネが受け取ると両手で剣をしっかりと握りしめた。
「うむ。それが最も安全であるかもしれんな。お前が相手ならやつも取り戻すという気を起こさぬやもしれん。シオンよ。ハイネは復帰した直後だ。捜査の状況を説明してやってくれ」
分かりました、とシオンはハイネが気絶後のあらましを伝え始める。
気絶したハイネがジーナに抱きかかえられ兵舎の門番に預けられた後は市街地で以って僧兵による追跡が続けられた。
痺れがまだ残っているために足は遅くそのうちに追いつくだろうと思われたが、ここで第二隊通称ジーナ隊の隊員と偶然遭遇し、乱闘が始まった。
僧兵の報告ではこれにはジーナの指示はなかったとのことである。第二隊の隊員もあっちがぶつかってきたために殴ったと証言しており、奇妙なことに両者の言い分に疑いの余地はないのであった。
このせいで追跡が途絶え聞き込みに頼ることとなる。
本来なら目立つはずのない兵隊姿であるもジーナはある意味で目立つ存在であるために目撃談は容易に拾えたが、その行き先を追っていくと……
「封印の森に、ですか……」
聞いたハイネがそう呟くと場の静けさがさらに深まった。
封印の森、それは龍の休息所の裏に広がる森林地帯のことであり古よりずっと開拓はされてはいない。
それは龍の始祖がこの森林地帯にここ龍の休憩所を建造した際に、これより以後一切の手を入れることを禁じたからであった。
龍の許可がなければ誰も入ることは許されない封印された一帯である。
「地下迷宮の入り口を隠すためとは昔から言われておりますね」
ルーゲンがそう言うと場の緊張感が強まりそこにいる誰もが分かった。
思うことはみな同じであった、封印の森から地下迷宮に繋がっている可能性があると。
地下迷宮とは中央の城の真下にある古代の遺跡であり、これもまた龍の始祖が遥か彼方の時代に一部を除き立ち入り禁止としてしまい、どのような構造であり、どことどこが繋がっているということが全く不明となったままである。
「……禁止されたことを破るのが好きというかなんというか」
龍身が溜息を漏らすとルーゲンが含み笑いを浮かべたまま言った。
「最悪の事態を想定致しますと彼は封印の森に逃げ込み、どこかにあるかもしれない地下迷宮への入り口を発見しそこから通じてここに……」
ルーゲンが床に指を指すと一同がそれを見つめ息を呑む。
「どうだ導師? 可能か?」
龍身は尋ねた。
「できるかどうか、は彼の運と努力次第でありましょう。我々としましてはその最悪の事態を想定し、その可能性を一つずつ潰していく、それをやるほかにはありません。シオン嬢と僕の指揮のもと休息所周辺から徐々に波状的に捜索の輪を広げている最中であります」
満足そうに頷きながら龍身は手元の書類をめくる。
「塔の壁面に入口の類のものは無かったようだな。それに現在の捜査範囲内でも入り口らしきものはないと。これでもここへの入り口があるという可能性は捨てきれないというのか?」
「最後まで捨てることはしない方が良いと思われます。何故なら休息所は龍の為の施設でありそのため最高機密であるために、設計図はもとより無くそういった類のものが一切ございません。これは龍の始祖様のご命令でもありましたでしょう。そのために研究及び探索といったものが禁止されております。つまりこの内部には我々があずかり知らぬ秘密の何かが隠されている、と見た方が良いかと」
「だが妾の指示でこの施設の調査を指示しておるが、そのようなものは見つかってはおらぬとのことだ。いったいどこにあるのやら」
全ては師の妄想ではないかと場の空気が少しずつ変わり出しているなかでルーゲンは天に指差し言った。
「すると残るは龍の祭壇付近、となります。実はそこにあると想定したのがはじまりでした。そこにあるとしましたら全ての理由は説明ができます」
「つまり龍の為の脱出経路があるということか。龍の広場、あるいは祭壇になぁ……ふむ、あってもまぁおかしくはない。この建物の道は一本だけであるからな。上りも下りも同じ階段。もしも下から敵が攻めてきたとしたら妾は上に登っていくしかないが、青天井には階段はかかっておらず、さりとて妾とはいえ空は飛べぬからのぉ。龍の始祖が龍身専用の脱出路を設けても不思議ではなく、むしろ当然と言えような」
「逆に考えますとそれが侵入路ともなります」
ルーゲンの指摘にまた場の空気が凍るも龍身は笑いを堪えながら、小さく笑った。
「おお怖いな。しかし間抜けでもない限り一方通行になるような仕掛けにすると思うがのう。脱出路は出口でもあり入口でもあるとする導師の見立てによると、不敬ではあるが龍の始祖様はどこかおっちょこちょいであるようだな」
指摘に対しルーゲンは龍身と似た笑い方をしながら答えた。
「そうなさってはくれているでしょう、が分かりません。そもそものお話、僕の仮説は全てあるともないともいえない闇の中なのです。仮にあったとしましたら、長い年月を経てそれがどうなってしまい、どのような状態であるのかは全くの不明です。龍の始祖様が御造りであるのなら完全なままだ……と言い切れません。またそんなものは絶対にない、絶対にないからそのようなことは考えなくてもよい……と言える自信などはありません」
シオンが口を開いた。
「……ルーゲン師の考え方を真似るとジーナがその脱出路の知っている可能性を排除すべきではない、と言えますね」