私をフッた元上司と再会したら求愛された件
 荷物をまとめた私は立ち上がり、デスクの島を抜けてフロアを出る。エレベーターを待っていたら、入れ替わりで社長の一条さんが出てきた。

「お、園崎。これから打ち合わせ?」

 気さくに手を振る一条さんに、私は会釈を返す。

「はい、例のラクリノです」

 ラクリノは、不動産テックのスタートアップ企業。中古物件の購入とリノベーションをセットで仲介するシステムを開発している。

 システムの正式リリースは三ヶ月後で、ランディングページの作成や広告配信をすべてワッドウィズで請け負うことになっている大口案件だ。最近、営業成績があまり良くない私にその案件を振ってくれたのは、一条さんが私に期待を寄せてくれたからだと思う。

「ラクリノはこれからサービスが始まるし、まっさらな状態だからこそ、園崎もじっくり腰を据えて向き合えると思うんだ。きっと良い提案ができると思うから頑張って」

「は、はい!」

 ポン、と叩かれた肩に、ずっしり重みを感じた。
 広告を通じて企業を成長させるパートナーになる――それがワッドウィズの企業理念だ。クライアントの課題を単発的に解決するのではなく、企業そのものの成長に寄り添ってサポートする姿勢に共感して、入社を決めた。

 きっとこの会社なら理想とする自分の仕事ができる。

 そんな期待を胸に抱いていたものの、現実は目の前の仕事に忙殺されてそれどころじゃない。提案がワンパターン化してしまっていて、担当企業をうまく増やせないでいる。今日、打ち合わせ予定のラクリノも、ありきたりな提案しか考えられていない。

 普通――その言葉が重く圧し掛かる。ため息を漏らしながら、私は打ち合わせ場所であるシェアオフィスへと向かった。
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