私をフッた元上司と再会したら求愛された件
「二週間くらい前の夜に、うちの会社の近くで油井さんと会っていましたよね? そこでおふたりがハグしていたのを見たんです……」

『二週間前……? ああ、そういえば……』

 思ったより反応が薄い。油井さんと会ったことを今まで忘れていたような反応だ。

『確かに油井と会ったけど、旦那さん経由で優秀なITエンジニアを紹介してもらったから、そのお礼をしただけだよ』

「油井さんって結婚してるんですか?!」

 まさかすぎて、頭がハテナで埋め尽くされる。

「えっ? でも、じゃあどうしてハグ……?」

『あー……それは油井からしつこく恋愛話を聞かれて、好きな子ができたって白状させられた時にかな……油井は帰国子女で普段はアメリカ本社にいるから、リアクションもアメリカナイズされてて……』

 戸川さんは疲れたようにため息をついた。

『それで誤解させちゃったのか……本当にごめん』

 戸川さんの声がくたびれている。肩を落としていそうなその声音に、私の体も脱力して、シンクの縁に手をついて大きく息を吐いた。

「良かった……」

「それ、どういう意味?」

 思わず本音をこぼすと、間髪を入れずに戸川さんの声が聞こえてきた。

「言っておくけど、俺が好きなのは園崎だから」

 いきなりの告白に、心の準備ができてなくて、しゃっくりの前兆のように横隔膜が変に震えた。

「えっと、あの、私……」

 どうしよう、なんて答えよう。

 あたふたしながらも、思い浮かべるのは戸川さんの顔。そうしたら無性に彼に会いたくなった。

「戸川さん、会いたいです。会いに行っても、良いですか……?」

「うん。俺も園崎に会いたい」

 声はみっともないほど震えていたけれど、戸川さんの声は蕩けてしまいそうなくるい甘やかなものだった。
< 40 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop