記憶を失くした令嬢が、二度目の恋に落ちるまで

第5話 真相


 ある寒い日の午後、湖の上に厚く張った氷の上を、ふたりは手を繋いで滑った。

 手袋越しでも伝わってくるジェイドの温もりに、リディアはとうとう言わずにいられなくなり、ジェイドにそっと問いかける。

「ジェイド様……どうして、こんなに優しくしてくださるのですか?」
「――え?」
「わたし、ずっと考えていたんです。ジェイド様が、わたしに良くしてくださる理由。そしたら、もう、答えは一つしか思い浮かばなくて……」

 刹那、ジェイドは足を止めた。
 勢いを失くしたスケート靴は一気に失速し、二人は、ゆっくりと静止する。

 静寂だけが満ちる氷の上で、リディアはジェイドを見上げた。

「わたしたち、もしかして恋人同士だったんですか?」

 父も母も、アニスや他の使用人たちも、誰も真実を教えてくれない。
 それは、ジェイドもまた同じだ。

 けれど、だからこそ、そうとしか考えられなかった。

 未婚の男女が二人きりで出掛けることを許される理由――最初はそれを、主人と護衛だからだと思っていた。だが、ジェイドの行動は、明らかに護衛の域を超えていた。

 それなのに、誰もジェイドを咎めない。
 そんなの、もう、答えは一つしかないではないか。


 けれど、ジェイドは答えなかった。

「その答えは、もう少しだけ待ってくれないか」と、曖昧に告げるだけ。

 リディアは失望した。
 胸の奥に、冷たい風が吹き抜けた気がした。

 違う――と否定しないあたり、恋人に近い間柄だったことは間違いない。
 それなのに、そうだ、と肯定しないジェイドに、自身の存在を否定された気がした。

(ジェイド様が愛しているのは、今のわたしじゃない。過去のわたしなんだわ)

 微笑もうとしても、うまくいかない。

 リディアは繋いでいた手をそっと離し、一歩、二歩と後退ると、ジェイドに背を向け走り出す。


 
 その日から、リディアは部屋に引き籠った。

 そしてまた、ジェイドも、この日を境にパッタリと姿を現さなくなった。

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