記憶を失くした令嬢が、二度目の恋に落ちるまで


 それから二週間。
 リディアは部屋の外に出ることなく過ごした。

 運ばれる食事にもほとんど手をつけず、窓辺に佇んでは、雪の降る景色をぼんやりと眺めていた。


(ジェイド様は、あの日から一度もいらっしゃらない。……やっぱり、彼が愛していたのは……)

 思い出してみれば、初めて出会ったときから、彼は不自然なほど優しかった。
 自分を見つめる眼差しも、名前を呼ぶ声も。
 それが、彼と恋人同士だった、過去の自分に向けられたものだと考えれば、辻褄は合う。

(……やだ。わたしったら、過去の自分に嫉妬してるの?)

 窓ガラスに映る、十七歳の自分の姿。彼が愛した知らない自分に、鬱々とした感情が込み上げた。


 そう言えば一度だけ、彼に聞かれたことがある。
「もし記憶を取り戻す方法があるとしたら、どうする?」と。

 その問いに、自分は何と答えただろうか。確か、特に深く考えず、「取り戻せるものなら、取り戻したい」と言った気がする。
 そしたら、彼は酷く寂しそうな顔をして……。

(ジェイド様はあのとき、何を思っていたのかしら。この半年間、どんな気持ちでわたしの側に……)

 目を閉じれば、昨日の事のように、ジェイドの笑顔が蘇る。
 その笑顔が、何度も夢に出てきた()の笑顔と重なることに、リディアはとっくに気が付いていた。
 あの夢はきっと、過去の自分(リディア)の記憶なのだと。
 
(もしわたしが記憶を取り戻したら、ジェイド様は、ちゃんとわたしを見てくださるのかしら……)

 リディアは大きな寂しさと苦しみを抱えながら、何日もそうやって過ごした。 

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