めぐり逢い 憧れてのち 恋となる【書籍化】
「わあ、素敵ですね」

ホテル フィオーレのロビーに足を踏み入れると、吹き抜けを利用した高さのあるクリスマスツリーが目に飛び込んできた。

「あっ、これ生のお花ですよ」

近づいてみると、鮮やかな赤と白のポインセチアやペッパーベリー、ヒイラギなどがツリーを彩り良く飾っていた。

「本当だ。クリスマスの装飾は今年は10日間だけだそうだから、生花にこだわったんだろうな。フィオーレの名前にもちなんで」
「そうですね。みずみずしくて、いい香りがします」

花穂は大きく息を吸い込み、ふふっと大地に笑いかける。

「来年は私たちが装飾を担当するんですよね。がんばらなきゃ!」
「ああ、そうだな」

すると後ろから「おや? 浅倉さんと青山さん? 」と声がした。

振り返ると、スーツ姿の須崎がにこやかに近づいて来る。

「須崎支配人! こんばんは」
「やはりお二人でしたか、こんばんは。今夜はプライベートで? えっと、お二人のお名前でご予約は入ってなかったと思うんだけどなあ」
「あ、いえ。そういう訳ではなく……。少しロビーの装飾を見に立ち寄っただけでして」
「そうでしたか。あ! もしよろしければ、客室をお使いください。あいにく今夜は満室ですが、万が一に備えて予備のお部屋を押さえてあったんです。もうほとんどの方がチェックインを済まされたので、このままですと余ってしまいます。よろしければどうぞ」

ええ!?と二人で声を揃えて驚く。

「そんな、突然お邪魔したのに……」
「お二人にはいつもお世話になっていますから、これくらいサービスさせてください。お食事は済まされましたか?」
「いえ、まだ……」
「でしたら、お部屋にディナーとクリスマスケーキをお届けに上がります。今、ルームキーをお持ちしますね」

あの……、と呼び止める声も虚しく、須崎は颯爽とフロントカウンターに向かって行った。
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