二度と恋はしないと決めたのに～フライトドクターに娘ごと愛されました～

千咲や紬にとって初めての引っ越しで、特に紬が環境の変化にどんな反応を見せるか不安に思っていたものの、意外にもあっさりと順応している。

それは自宅だけでなく、保育園でも同じ。以前通っていた保育園から、櫂の働く総合医療センター内の託児所へ預け先を変更したが、あたたかく迎え入れてくれた先生たちのおかげですぐに馴染み、今ではとても楽しそうに通っている。

むしろ千咲の方が、いまだ慣れない住まいに戸惑っていた。

これまで住んでいた古い一軒家と、高級高層マンションではなにもかもが違う。ホテルと見紛うエントランス、入口だけでなくエレベーターにもカードキーが必要なセキュリティ、二十四時間対応してくれるコンシェルジュがいるなど、初めて来た時は部屋に着くまでに何度も驚かされた。

室内に入ってからも、リビングの広さ、眺望のよさ、モデルルームのような洗練されたインテリアなど、なにを重点に驚きべきか混乱してなにも言えなくなってしまった。

数週間経った今もここが我が家だという実感が湧かず落ち着かないが、櫂の「そのうち慣れるよ」という言葉を信じ、その日を待ちわびているところだ。