二度と恋はしないと決めたのに~フライトドクターに娘ごと愛されました~

櫂はそんな彼女の肩にぽんと手を置き、「全力を尽くす」と伝えた。

〝絶対に助ける〟と言い切らなかったのは、手術に絶対はないと身をもって知っているからだ。

以前は救急医という仕事への情熱だけで『必ず助ける』と請け負っていた。けれど、幾人もの患者の命が零れ落ちていく場面に立ち会い、亡くなった患者の家族から何度も『嘘つき』と責められ、この仕事に〝絶対〟はないのだと骨身に染みた。

しかし、決して諦めるわけではない。救急医は命を救うために存在するのだし、そのための努力ならば惜しまない。だからこそ、全力を尽くすと伝えたのだ。

すると彼女は目を見開き、ぽろりと一筋の涙を零した。手を置いた千咲の肩は驚くほど細く、小さく震えていて、この華奢な身体で重圧に耐えながら救命士としての職務を全うしているのだと尊敬の念を抱いた。

千咲はすぐに零れた涙を見られまいと手のひらで乱雑に拭き、「お願いします」と一礼して去っていった。その後ろ姿は、やはり凛としていて美しかった。


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