気まぐれヒーロー
「もも、何か悩みがあるのならお父さんに打ち明けてごらん?」
コーヒーを飲みながら、穏やかに目を細めるお父さん。
お父さんは、優しい。
おっとりのんびりしたお父さんは、テキパキして気の強いお母さんの尻に敷かれている。
「ううん、別に何でもないよ」
心配かけないようにお父さんに笑って、首を横に振った。
「そうか?遠慮しなくていいんだぞ」
コーヒーの最後の一口を飲み干すと、お父さんはリビングの時計を確認した。
「おっと、もうこんな時間か」と立ち上がるとスーツの上着を羽織り、鞄を持ってお父さんは玄関に向かう。
私が「いってらっしゃい」と言うと「ああ、いってきます」と微笑んでくれた。
そしてお母さんもお父さんを見送りに、玄関に一緒についていった。
食パンをかじりながらも、私の胸の中はモヤモヤと晴れなくてスッキリしない。
ジローさんのペットなんてごめんだなんて思っていたのに……今朝の夢みたいになったら
ちょっぴり寂しくなっちゃうのは、どうして?
「はぁ……」
何度目かわからないため息をついた時だった。
「うわ、な、なんだ君は!?我が家に何の用があるんだ!!」
玄関の方からお父さんの、混乱したような、普段のお父さんからは考えられない悲鳴じみた声が聞こえてきた。
何事かと思いパンを皿に置いて、玄関に向かって駆け出す。
「お父さんどうしたの!!?」
お父さんとお母さんはこちらに背中を向けて、並んで立っている。
玄関のドアは、開け放されていた。
朝の綺麗な空気の中、私の家の前に誰かがいる。
お父さんとお母さんはその“誰か”を目にして、固まっているようだった。
訳がわからず、二人の間から私も顔を覗かせて、“誰か”の正体を探ってみた。
「グッモーニ~ン。ピーチ姫ちゃん、お迎えにあがりましたよん」
太陽を浴びて、キラキラ輝く鮮やかな緑の髪。
そこには──
マヌケ面の私にニコッと笑ってひらひらと手を振る、制服姿のハイジが立っていた。