気まぐれヒーロー



今だって、ジローさんは無口な方だと思ってる。

実際、必要最低限のことしか話さないし。しかも言ってる内容、ほぼ理解不能だし。


でも、それは……彼の“過去”に関係がある?

昔のジローさんを見てきたわけじゃないから、ケイジくんに“変わった”って言われてもピンとこない。


それに……


「私、何もしてないよ。私が変えたんじゃないよ……。ケイジくん、ジローさんが変わったって言うなら……それは私の力じゃないよ」


だって私、タマちゃんの代わりだし。


最初から、ジローさんは優しかった。

“ヤバい”人だって思い込んでビクビクしてた私に、とっても優しくしてくれた。

だから……怖くなくなった。
みんなの言ってること、疑う自分がいた。


お兄ちゃんと、深い関係にある人だった。


私は……自分でも気づかないうちに、彼に惹かれていた。

わかりにくい優しさが、愛しくなった。

もっともっと近くで、彼を見れたらいいと思うようになった。


……あの反則的な美貌には、目眩がするけども。


私の名前、ももって言ったって『桃』としか受け取ってくれないし、結局のところ私は犬なんだろうし。

私は、何にもしてない。
ジローさんの手に甘えてただけだ。



「うん、そうやないねん。ももちゃんは、ジローちゃんといてくれとるやん。ジローちゃんの傍に、変わらずいてくれとるやん。それでええ。それがええねん」



ケイジくんって、百面相だ。

金縛りにでもあいそうな眼差しを向けてくると思ったら……ほら。

今じゃもう、黒い瞳に穏やかな光が満ちる。


私……嫌われてたわけじゃ、なかった?


私はケイジくんとあまり一緒にいなかったのに、彼はそんな僅かな時間で私をしっかりと見ていた。


「言ってること、難しいよ」

「うそん。わかりやす~く話してるつもりやねんけどぉ。とりあえず、ももちゃんは今のままでおってくれたらええから」

「うん……?」


やっぱり、わかんない。

私に教えるようで、わざとぼかしてるようにも思える。プリンスの狙いが読めん。



「俺らもやっと、変わる決意ができた」



タバコの火を踏み消すとケイジくんは吸殻を拾い、ゴミ箱に投げ入れた。


落ち着いた声音が、赤い髪が、やけに印象的だった。



「よろしく、ももちゃん」



何がなんだか、まるで霧の中にいるみたいだけど、何かが“変わる”。

……らしい。


“彼ら”の間では、もう決まってることらしい。


私も関係あるみたいなのに、私に詳しくは言ってくれず。


大きな不安要素だけを残して──


ケイジくんは清々しいほどに、にっこりと笑った。



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