気まぐれヒーロー



ケイジくんが戻ってきたことで、取り巻き達は再び凍りついた。

彼が自分達の“敵”になったことをやっと理解して、形勢が逆転することを悟ったみたいだった。



改めて、実感する。

“彼”が放つ、オーラを。


ただそこに居るだけで、その視線で射抜くだけで、相手の戦意を喪失させてしまうんだから。

それは、“彼”だけじゃなく、“彼ら”にも言えること。


私と小春、取り巻き達、そして……本城咲妃でさえ、ケイジくんが近づいてくるのを言葉も発せずに、見ていることしかできなかった。


全員が透明な鎖に縛られたように動けずにいる中、彼は地面に座らされている小春の横に立った。

そして小春のそばにいる男の前に、がばっとしゃがんだ。ヤンキー座りで。



「お前、ソレ何や」

「へ!?あ、……」



ドスのきいた低く太い声は、それだけで対象を恐怖に陥れる。

タバコの火で小春の肌を焼こうとした男は、未だに彼女の眼前にタバコをちらつかせたままの体勢でいた。

ヤンキー座りなケイジくんと視線が合った男は、彼の突き刺すような眼光と気迫に怖じ気づいてしまい、目が泳いでいた。


返事もできないでいる男の、タバコを持つ方の手首をケイジくんは強く握り、



「コイツは己のタメに使うモンや、女に向けるモンちゃうぞ」



もう片方の手で──タバコを、握り潰してしまった。

まだ、火が点いたままだっていうのに。


自身の手の平で、ケイジくんはタバコの火を消した。
そうするのに、彼には何の躊躇いもなかった。


皮膚が焼け焦げようとも、眉一つ動かさない。
それどころかますますケイジくんの目は鋭く尖り、冷たく光る。

助けられているはずの私と小春でさえ、固唾を飲んで彼の動向に見入っていた。


私達がこうなるんだから、標的になっている田川の友達は地に腰を下ろしてしまい、震え上がっていた。


そんな男の胸ぐらを荒々しく掴み、ケイジくんはぐいっと自分の方へ引き寄せる。
至近距離で、囁くように“忠告”を与えた。



「俺はこう見えて気ィ長いほうやからな……今回は目ェ瞑ったるわ。けどな、」



背筋がゾクゾクするような、少し掠れた低い声。



「次はないぞ」



それだけで、十分だった。

しっかりと男に、“恐怖心”を植え付けるには。



冷め切った目をしたケイジくんが突き飛ばすようにして胸ぐらを放すと、男はよたよたと立ち上がり、もう一人の男と脇目もふらずに退散していった。



「お前らも、ほんま……」



よっこらしょ、とケイジくんも立ち上がると、本城咲妃達にゆらりと視線を流した。



「ようここまで腐ったこと考えるわ」



途端に一斉に私と小春から離れ、ケイジくんと距離を取る彼女達。

五人で身を寄せ合って固まり、互いに“マズイ”と言いたげな顔をしている。


「……どうして、こんな女の言うこと聞くの?」

「そら、女の子に『たっけて~』て言われたら男として見過ごすわけにはいかんやろ」


取り巻きの問いかけに、ケイジくんはあっけらかんと答えていた。

すると、控えめにその中の一人が彼に話しかけた。



「ケイジくん、あたしのこと、覚えてるよね……?」




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