気まぐれヒーロー
私はこういう“不良”と呼ばれるような男が、苦手だった。
平気で人の領域に入り込んで踏み荒らし、平然と去っていく。どうしてそんなにズカズカ侵入できるのか、心底理解に苦しむ。
行動も言動も予測不可能。
不良という生き物は私にとって、未知の生命体だった。
緑頭は屋上のフェンスにもたれるとポケットからタバコの箱を取り出し、そこから一本抜くとライターで火をつけた。
「ちょっとそれ、あなた未成年なのに……!」
「もう成人してる」
「え?」
ど、どういうこと?
もう成人って18歳?でも確かタバコは20歳からだったはず。
ってことは20歳過ぎてるのこの人!?
見え……なくもないけど、でもやっぱり高校生っぽい……。
つまりそれって、
「ダブってんだよ、俺」
「あ、そうなんだ。ごめんなさい」
「ぶはっ!」
「……は?」
素直に謝ったのに、緑は急に吹き出してゲラゲラ笑い出した。
白い煙が、空に散ってゆく。
「な、何?」
「冗談だっつーの、んなダブってたまるか。まだ俺、ピチピチの16歳よ?おねーさん、もっと人を疑うってこと覚えな〜?」
……殴り倒したい!しかもピチピチって古っ!なんなのこの緑!!
「そう怒んなって、可愛くねえ顔がもっとひどくなんぞ~。ぎゃははは!」
マ、マジでこの男どうしてくれようか。
悔しい。私が何したっていうの?