不幸を呼ぶ男 Case.1

滝沢は銀色のS&W M500を見つめていた
その銃身の冷たい光沢は遠い日の記憶を呼び覚ますようだった
***
【ロシア軍事施設内】
重い鉄の扉の向こうから陽気な声が聞こえてきた
「よう!タキ!」
声の主は屈強な体格のロシア人軍人だった
彼の名前はイヴァン
屈託のない笑顔が彼のトレードマークだ
滝沢「ん?どうしたイヴァン?」
滝沢は顔を上げ少し訝しげに問い返す
「そんなにテンション上げて」
イヴァン「タキお前にプレゼントだ!」
イヴァンは満面の笑みで両手に抱えた箱を差し出した
滝沢「どうした?急に」
イヴァン「前に決めたじゃないか」
イヴァンはそう言ってウインクをした
「お前の誕生日!」
滝沢「あぁ……」
滝沢は遠い目をしながら呟いた
「俺に誕生日が無いからクリスマスを俺の誕生日にしようってやつか」
イヴァン「そして今日はクリスマスだ!」
イヴァンは胸を張って言った
「だからプレゼント!」
滝沢「ありがとなイヴァン」
滝沢は素直に礼を言った
イヴァンのこういう押し付けがましい優しさは嫌いではなかった
イヴァン「開けてみろ!タキ!」
イヴァンは待ちきれないといった表情で箱を指差した
滝沢はイヴァンから受け取ったプレゼントの箱を開ける
包装紙を開き箱の蓋を開けた瞬間滝沢は息を呑んだ
「ほんとかよ!イヴァン……」
箱の中を見て滝沢は心底驚いた
そこには銀色にピカピカと輝くS&W M500が鎮座していたのだ
イヴァン「タキがずっと欲しいって言ってただろ?」
イヴァンは得意げな顔で言った
滝沢「あぁ……」
滝沢はゆっくりと頷いた
「こりゃすげぇ……」
M500を手に取り構えながら滝沢は呟いた
その手に見慣れないはずの銃がしっくりと馴染んだ
イヴァン「タキもここから出れたらうちのパーティーに誘うんだがな!」
イヴァンの笑顔が一瞬曇った
このロシアの軍事施設がどのような場所なのか
二人の間には暗黙の了解があった
滝沢「……」
滝沢は何も言わずに銃を見つめた
イヴァン「だから値ははったがタキへのプレゼントはこれにしようと思ってさ!」
イヴァンはすぐにいつもの笑顔に戻り滝沢の肩を叩いた
滝沢「高かったろ?」
イヴァン「75万ルーブル!」
当時のレートで日本円にして約100万円。
滝沢は目を丸くした。
滝沢「そんなにしたのか!?」
イヴァン「タキの為の特注品だ!」
イヴァンは再び滝沢の肩を力強く叩いた
その瞳には一片の曇りもなかった
イヴァン「俺たちは親友だろ?」
滝沢「あぁ……」
滝沢はイヴァンの目を真っ直ぐに見つめ返した
「ありがとなイヴァン」
その言葉は紛れもない滝沢の心の底からの感謝の言葉だった
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